死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
第五章 百花の王を纏いて
 迎えた宴席の当日。私たちはいつもの黒塗りの車に揺られ、都内でも一等地と名高い高級住宅街へと向かっていた。

 本日の宴席を主宰するのは、嵯峨野(さがの)物産株式会社。
 社長であり、嵯峨野家の当主である忠興(ただおき)氏が、懇意にしている人物を自宅の屋敷に招くらしい。

 嵯峨野家は由緒正しき家柄で、伯爵の爵位を賜っているため、天澤家と同じく華族の身分に当たる。
 そして嵯峨野物産は、天澤製薬が世に送り出す薬品を全国へ、そして海外へと流通させている商社だ。日ごろからかなりお世話になっていると篤志さんから聞いている。

 天澤家の嫁、そして天澤製薬の社長夫人として篤志さんの隣に並ぶ――その覚悟を決めたものの、やはり私の心臓は朝からずっと激しい鼓動を繰り返していた。
 今日ここで失敗すれば、笑われるのは私だけではない。天澤の名にも泥を塗ることになる。そう思うだけで緊張して仕方ない。

「琴乃、顔が硬い。落ち着いて、深く息を吸って」

 車がゆっくりと走る中、隣に座る篤志さんが、私の様子に気づいて声をかけてくれた。
 今日のために新調してもらった、大輪の牡丹が咲き誇る紅梅色の訪問着。
 今はその上等な絹の感触すら、重圧となって肩にのしかかってくるようだった。

「す、すみません。緊張してしまって……」
「俺の隣で微笑んでいてくれれば、それで十分だ」
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