死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「これは天澤伯爵。失礼いたしました。奥様でしたか。あまりに美しいお召し物でしたので、ご挨拶をと思いまして」

 若い男性は篤志さんの放つ迫力に負けたのか、引きつった笑みを浮かべながら一歩あとずさった。

「妻を褒めていただき感謝いたします。ですが、少々疲れたようですので、我々はこれで失礼します」

 篤志さんは冷淡にそう言い放つと、男性がそれ以上何か言う隙を与えず、私の腰に手を添えて歩き出した。
 大広間の喧騒をすり抜け、回廊に出たところで、彼はようやく足を止める。

「旦那様、すみません。ありがとうございました」
「いや。ひとりにした俺が悪い」

 そう言った篤志さんの横顔は、どこか険しくこわばっているように見えた。
 先ほどの男性とのあいだに割って入ってから、あまり目を合わせてくれない。
 いつもは涼しげな彼のこめかみに、うっすらと青筋が浮いているのに気づいて心臓が縮こまる。こんなに感情をあらわにする彼を見るのは初めてだった。

(……怒っていらっしゃるのかしら)

 天澤の妻として、不甲斐ないと思われたのかもしれない。
 私のせいでせっかくの宴席に水を差してしまったのだとしたらどうしようと、急に不安が押し寄せてくる。
 
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