死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「迎えが来る時間だ。帰ろう」

 懐中時計で時間を確認した篤志さんがそう言って、お屋敷の外に出るよう促した。
 迎えの車はもう到着していて、篤志さんに気づいた運転手が降りてきて頭を下げる。
 私たちは行きと同じように横並びに座り、静かに発進した車の中から景色を眺めた。

「疲れただろう」

 不意に篤志さんから声をかけられ、首を横に振りながら顔をうかがった。

「いえ……それよりも、私はきちんと立ち振る舞えたでしょうか」

 ポツリとつぶやくようにそう言うと、彼は私を責めもせず、ただじっとこちらを見ていた。

「私は男爵家の娘として育ちましたが、実家は没落しましたし……立派な方たちから笑われたのではないかと」
「そんな心配はいらない」

 彼はそう言うと、私を安心させるように優しく目を細めた。

「嵯峨野夫妻も感心してくださっていただろう? 琴乃はどこに出しても恥ずかしくない」
「あれはお世辞ですよ。……私など妻にして後悔していませんか?」

 彼は首を横に振ると、太ももの上に置いていた私の手を引き寄せ、大きな手のひらでそっと包み込んだ。

「俺はあの日、琴乃を妻にすると決めたんだ。それを後悔したことは一度もない」
「……ありがとうございます」
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