死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 私は言葉を失って彼を見つめることしかできなかった。
 父が亡くなってからずっと、自分は天澤家のお荷物になっているのではと、心のどこかで怯えていた気がする。それが彼の今のひとことで、見事に溶けてなくなった。
 手のひらから彼の真っすぐな感情が伝わってきて、私の鼓動は再び速度を上げていく。
 ヤケドが治りきらない私の手を、優しく労わるように触れる彼は、本当に包容力のある人だ。

 車はしばらく通りを進み、天澤邸まで戻ってきた。
 いつもの場所で車を降り、篤志さんのあとに続いて玄関へと向かう。

「おかえりなさい」

 私たちを出迎えたのは、住み込みで働いている女中ではなかった。
 私はあわてて「ただいま戻りました」と深く頭を下げる。

「母上、なぜこんなところにいるんです?」

 玄関で背筋を伸ばして立っていたのは、お義母様だった。
 冷たい視線を送られ、私の背中に嫌なじわりと汗がにじむ。
 篤志さんは眉をひそめ、あきれたようにため息をついていた。
 だけど私にはこの状況をどうすることもできず、隣でただ肝を冷やすしかない。

「あなたたちの帰りを待っていたのよ」
「話なら部屋で」
「明後日、華族のご婦人方を招いて昼食会を開きます」
「……ずいぶん急ですね」
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