死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「飲めるようなら、熱冷ましの薬を飲ませてください。しかしこれは……かなりの吐き下しだったでしょう」
「はい。胃の中のものは全部吐き出したようなので、今は何も残っていないと思います」
「水は飲ませましたか?」
「少しずつですが、これを。……砂糖と塩が混ざったものです」

 お医者様は私の話を聞きながら水差しを見て、驚いたのか目を丸くしていた。
 病状の報告を受けるため、三人を寝かせたまま、居間のほうへ移動してくる。

「三人とも急性胃腸炎でしょう。だが幸い、対応が早く見事だった。すでに峠は超えて、容態は落ち着きつつあります」

 そう言って、お医者様は念入りにおこなっていた消毒の痕跡に視線を巡らせている。
 
「さすが天澤製薬のお屋敷ですな。石炭酸のにおいがします」

 たしかに天澤家は製薬を生業としているけれど、消毒液のにおいがするようになったのは、皮肉にも私が嫁いできてからだと思う。

「しかし驚きました。部屋の消毒もですが、吐瀉物の迅速な処理……。それに、あの水は脱水を防ぐためにわざわざ塩と砂糖を調合されたのでしょう? あなたが作ったんですか?」

 微笑みながらコクリとうなずくと、そばにいた女中が「あの……」と小さな声で口を挟んだ。

「若奥様が、すべてご指示くださったのです。吐き下されている中、なんとか水分を摂っていただきたいと、あのお水をご自身で作っていらっしゃいました」

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