死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 自分の功績を大袈裟に語られるのが恥ずかしくて、私はあわてて女中の袖をそっと引き、目配せをしてたしなめた。
 今は何よりもお義母様たちの容態回復が最優先だし、看病しただけで褒められすぎるのは居心地が悪かったのだ。

「驚きました。医学を学んだ方でなければ、ここまでの救急処置はできませんよ」
「亡くなった父が、医者でしたので……」
「お父上が? 天澤家の奥方といえば……あ、桐ケ谷先生のご息女でしたか。これは失礼いたしました。さすがですね。先生は本当に研究熱心で、医師として素晴らしい方でしたから」
「……ありがとうございます」

 目頭がじわりと熱くなり、あわてて瞬きを繰り返す。
 世間からはすっかり忘れ去られてしまったと思っていた父を、こうして今も敬意を持って覚えてくれている人がいる。その事実がうれしくて、胸の奥が熱くなった。

「この迅速な対処がなければ、間違いなく全員が深刻な脱水症状に陥り、今ごろは熱で意識を失っていてもおかしくありませんでしたよ」

 お医者様から絶賛され、私はただ「滅相もございません」と深々と頭を下げて恐縮するばかりだった。
 だけど、自分の中に残っている父の知識が、この家の人々の命を救ったのだと思うと、ホッとするのと同時に誇らしげでもあった。
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