死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 診察が終わったお医者様を、屋敷の外に出てていねいにお見送りをした。
 症状は回復に向かうと思われるが、もし悪化するようなら、すぐに連絡をしてほしいと言われた。
 そのときにはまた往診してくれるとのことだ。

 ようやく肩の力を抜いていいのだと自分に言い聞かせても、身体はまだこわばったままだった。膝の震えに気づいたのは、お医者様の車を見送ったあとのことだ。

 その後、部屋に戻ってお義母様たちの看病を続けていると、玄関先から女中たちの声が聞こえた。篤志さんが帰宅したようだ。
 私も出迎えようと、そっと部屋を出ると、廊下を歩いてくる彼の姿が視界に入った。

「おかえりなさいませ」
「琴乃……大変だったな」
「お仕事中に連絡してすみませんでした」

 身を縮める私に、篤志さんは大きな手で私の肩を包み込むように優しく引き寄せた。
 その瞳には、私を心配する気持ちが色濃く浮かんでいる。

「謝る必要はない。家族が一斉に倒れ、琴乃がひとりで采配していたと聞いた。本当によくやってくれたな」

 肩に置かれた彼の手から温もりが伝わってきて、心に張り詰めていた緊張の糸がほどけていく。

「母上たちは?」
「お部屋で横になられています」
「琴乃はもう戻っていいよ。あとは女中たちが世話を」
「いえ、私が看病します。三人とも‟私の家族”ですから」
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