死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 私は医者の娘として当然のことをしたまでだ。
 それに、嫁いできた身の私にとって、三人は紛れもなく私の家族。
 
 私が迷いなく看病をかって出ると、篤志さんは息をのんでわずかに目を見開いた。
 自分に冷たい仕打ちをしてきた人間を家族として包み込もうとする私の言葉は、彼にとっては相当以外だったのだろう。
 彼は驚いて固まっていたものの、少しすると口もとがゆっくりと和らいだ。

「母は、あれほど君を拒んでいたのに」

 私は静かに首を横に振った。
 これまでに無視をされたり、汚らわしいもののように扱われたりしたことは、正直つらくなかったと言えば嘘になる。
 だけど、それとこれとは話が別だ。困っている家族を放っておけるほど、私は薄情にはなれない。
 普段虐げられているかどうかは、関係ない。

「……琴乃には敵わないな」

 ポツリとこぼれた彼の声が、私の心に優しく染み入ってくる。

 実家が没落したと言われようと、今の私は天澤の妻として、前を向くしかない。
 立派な医者だった父の娘として、私は病床の家族のもとで一晩中看病を続けた。

 ――お父様、私、ちゃんとやれていますよ。
 心の中で天国にいる父へそっと語りかける。

 父が残してくれた知識は、人を救うためにある。
 それだけは、どんなに時代が変わっても消えない。

 私は桐ケ谷時宗の娘として、そして天澤家の嫁として、この家を守っていこうと胸に誓った。
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