死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
第七章 令嬢の名誉
義家族三人が倒れた昼食会から、一週間ほどが経ったころだった。
庭の木々もすっかり生い茂り、初夏の蒸し暑さを感じるようになっていた。
あの慌ただしい騒動が幻だったかのように、天澤家には穏やかな日々が戻ってきている。
——私はそう、思い込んでいた。
この日の午後、私は縫い物をしていて途中で糸が足りなくなったため、女中が滞在する部屋へ向かった。
外から声をかけようとしたところ、中から漏れ聞こえてきた話し声に、思わず足が止まる。
「だから、今朝も青果店のご主人にそう言われたのよ。天澤の若奥様は、例の家の人だったんだな、って嫌な顔をされて……」
「まあ、それでどうしたの?」
「曖昧に笑って、買い物だけして逃げるように帰ってきたわ。すごく感じが悪かったのよ」
若い女中がふたり、私がそばにいるとは気づかずに話し込んでいる。
聞いてはいけない話だとわかりながらも、自分に関係することだと思うと気になって、私はその場に立ち尽くしてしまった。
「労咳で家族が全員亡くなったお家の出だって、街ではすっかり噂になっているみたい。それに、このあいだの食中毒騒ぎも重なって……縁起が悪いって、天澤家は陰でヒソヒソ言われているのよ」
「やだ、街中で陰口? ひどいわね。でも、ご本人には知られないようにしないとね」
「そうよ。若奥様は私たちにもあんなに優しくしてくださるんだから」
庭の木々もすっかり生い茂り、初夏の蒸し暑さを感じるようになっていた。
あの慌ただしい騒動が幻だったかのように、天澤家には穏やかな日々が戻ってきている。
——私はそう、思い込んでいた。
この日の午後、私は縫い物をしていて途中で糸が足りなくなったため、女中が滞在する部屋へ向かった。
外から声をかけようとしたところ、中から漏れ聞こえてきた話し声に、思わず足が止まる。
「だから、今朝も青果店のご主人にそう言われたのよ。天澤の若奥様は、例の家の人だったんだな、って嫌な顔をされて……」
「まあ、それでどうしたの?」
「曖昧に笑って、買い物だけして逃げるように帰ってきたわ。すごく感じが悪かったのよ」
若い女中がふたり、私がそばにいるとは気づかずに話し込んでいる。
聞いてはいけない話だとわかりながらも、自分に関係することだと思うと気になって、私はその場に立ち尽くしてしまった。
「労咳で家族が全員亡くなったお家の出だって、街ではすっかり噂になっているみたい。それに、このあいだの食中毒騒ぎも重なって……縁起が悪いって、天澤家は陰でヒソヒソ言われているのよ」
「やだ、街中で陰口? ひどいわね。でも、ご本人には知られないようにしないとね」
「そうよ。若奥様は私たちにもあんなに優しくしてくださるんだから」