死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
心臓がドクンと大きく跳ねた。下げていた両手がかすかに震えてくる。
見つめていた廊下の板張りが一瞬ぐらりと揺れて、ふわふわとした眩暈に襲われた。
「入りますよ」
どういう状況なのか、しっかりと話を聞かなければと気を張り直し、私は声をかけつつ障子を開けた。
「あの……聞こえてしまったんだけど、今の話は何?」
私の姿を見た女中たちは顔を見合わせたあと、みるみるうちに青ざめていった。
「わ、若奥様! 申し訳ございません。つい、巷の噂話を……」
「いいのよ。責めているわけではないの。ただ、正直に教えてほしいの」
努めて穏やかにそう告げると、女中のひとりが意を決したように口を開いた。
「実は……若奥様のことで、良くない噂が広まっているようなのです。このあいだの昼食会のことも合わさって、桐ケ谷家のご出身だということが、方々に伝わってしまっているようで……」
言いにくそうに視線を落とす女中の姿を見て、私はそれ以上、何も聞くことができなかった。
「そうだったのね。わかったわ。ありがとう」
そう告げて、私は本来の目的だった糸を借り、静かにその場をあとにした。
自室に戻ってからも、頭の中では女中の言葉がぐるぐると巡っていた。
見つめていた廊下の板張りが一瞬ぐらりと揺れて、ふわふわとした眩暈に襲われた。
「入りますよ」
どういう状況なのか、しっかりと話を聞かなければと気を張り直し、私は声をかけつつ障子を開けた。
「あの……聞こえてしまったんだけど、今の話は何?」
私の姿を見た女中たちは顔を見合わせたあと、みるみるうちに青ざめていった。
「わ、若奥様! 申し訳ございません。つい、巷の噂話を……」
「いいのよ。責めているわけではないの。ただ、正直に教えてほしいの」
努めて穏やかにそう告げると、女中のひとりが意を決したように口を開いた。
「実は……若奥様のことで、良くない噂が広まっているようなのです。このあいだの昼食会のことも合わさって、桐ケ谷家のご出身だということが、方々に伝わってしまっているようで……」
言いにくそうに視線を落とす女中の姿を見て、私はそれ以上、何も聞くことができなかった。
「そうだったのね。わかったわ。ありがとう」
そう告げて、私は本来の目的だった糸を借り、静かにその場をあとにした。
自室に戻ってからも、頭の中では女中の言葉がぐるぐると巡っていた。