死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 縁起が悪い家、労咳で家族を亡くした娘……。
 その一つひとつが、なんだか今になって胸に傷をつくっていく。

 もしかして……旦那様もこの噂を耳にしているのだろうか。
 もし知っていて私に黙っているのだとしたら、私を気遣ってのことなのだと思う。
 だけど、そうやって守られるばかりでは、いつまで経っても本当の意味でこの家の一員にはなれない気がした。

 医者はどんな病気でも治せる神様じゃないのに、父は往診先で心無い言葉を言われて帰ってくることが何度もあった。だが父は、決して患者も家族も見捨てず、理解を得ようとしていた。

『人は誰でも病気になる。それなのに、怖いから、汚らわしいから……そう言って背を向ける者ほど、いざ自分や家族が病に倒れたとき、誰よりも救いを求めてすがってくるんだ』
 
 ふと、父の言葉が脳裏によみがえった。
 幼かった私には、その意味がまだよくわかっていなかった。
 だけど今、こうして自分自身が忌み嫌われて陰口を叩かれる立場になってみると、父の言葉が痛いほどよくわかる。

 午後の残りの時間、私はいつものように針を持ったけれど、まるで手につかなかった。
 廊下を歩くたび、すれ違う女中たちの視線が気になってしまう。
 彼女たちが普段どおり接してくれていることはわかっているのに、心のどこかで自然と疑心暗鬼になっている自分がいた。
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