死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「誰から聞いた?」
「今日、女中たちが話しているのを偶然耳にしてしまいました。街で、私のことを良くないふうに言う人たちがいると……」

 私の話を聞いた篤志さんは、しばらく黙り込んでいた。
 言葉を選んでいるのか、もしくは私にどう伝えるべきか迷っているみたいだ。だけどその沈黙が逆に、私の不安を煽ってくる。

「……隠していたわけじゃない。ただ、余計な心配をかけたくなかっただけだ」
「全部教えてください。私は旦那様にいつまでも守られているだけの存在ではいたくないんです」

 私がそう言うと、彼は目を見開いたあと、どこか観念したような表情になった。

「琴乃には……敵わないな」

 篤志さんは少し困ったように苦笑い、私の目を見つめ返す。

「知らせずに済むなら、それが一番だと思っていた。だが、隠しごとは良くないな。いずれ琴乃を傷つけることになる。今、それがよくわかったよ」

 話してくれないのは寂しいと思っていたけれど、彼は不器用なだけで、私をおもんぱかってのことだったのだと理解できた。

「実は、先日の昼食会での騒ぎが、少し妙な形で世間に広まっている。うちで食中毒があったこと自体はたしかだ。しかし、そこに尾ひれがついて、母たちが倒れたのは天澤の家に不吉なものが入り込んだせいだ、という噂に変わってきているらしい」
< 85 / 151 >

この作品をシェア

pagetop