死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 やはり女中たちが話していた内容と同じだ。私は唇を噛みしめながら、次の言葉を待った。

「琴乃が、労咳で家族を全員亡くした桐ケ谷家の娘だということが、その噂と一緒に広まってしまっているようだ」
「私のせいで……」
「琴乃のせいじゃない」

 篤志さんは首を横に振り、すぐさま強い口調で私の言葉を遮った。

「噂なんてものは、いつだっていい加減なものだ。そして、それを利用しようとする輩もいる」
「利用……?」

 それはいったいどういう意味だろう?

 私が首をかしげていると、彼は言葉を選ぶように黙り込んだあと、静かに続けた。

萬代(ばんだい)薬品が、妙な動きを見せている」

 萬代薬品――天澤製薬とは長年、業界内でしのぎを削ってきた競合の会社だと聞いている。
 天澤製薬ほどの大きな会社にも、こうしてあからさまに牙を剥いてくる勢力がいるのだと、あらためて思い知らされる。

「あそこは以前から、うちから取引先を奪おうと隙をうかがっていた。特に嵯峨野物産との取引は、喉から手が出るほど欲しいらしい」

 篤志さんは苦々しい顔で続けた。
 いつもは冷静な彼が眉間に深いシワを寄せていて、これほどまでに感情をあらわにするのは珍しい。
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