死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 私は手を合わせながら、心の中で語りかけた。

(桐ケ谷家のことで、悪い噂が立ってしまいました。労咳の家系だから、縁起が悪いのだと。……悔しいです)

 強い風が吹き、墓石の周りの草花がさらさらと揺れる。
 まるで、父がすぐそばで返事をしてくれているような気がした。

(だけど私は負けません。労咳にかかったことが悪いわけではありませんから。今日はそれをきちんと伝えてきます。お父様、空の上から見守っていてくださいね)

 目を閉じて、そんなふうに語りかけていたのだけれど、隣に人の気配を感じてそちらを見た。
 すると、いつの間にか篤志さんもやって来ていて、桐ケ谷家の墓石に向かって手を合わせてくれていた。

「旦那様……」
「俺もちゃんと、ご両親や千太くんに挨拶をしておかなきゃな」
「ありがとうございます」

 私が頭を下げると、彼はやわらかく微笑んでくれた。
 毎日仕事が忙しい中で、私のことも気遣ってくれる……そんな彼の優しさと包容力をひしひしと感じた。

 墓所をあとにし、屋敷に戻って身支度を整えていると、廊下で千草さんとすれ違った。

「お出かけですか?」

 口調はいつものようにそっけない感じだったけれど、なぜか彼女は私の顔をじっとうかがってきた。

「ええ、嵯峨野伯爵様のところへ。……何か聞いていますか?」

 思い切ってそう尋ねると、千草さんは一瞬気まずそうに視線を逸らした。
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