死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「天澤社長もおいででしたか。それに……」

 萬代氏の視線が私のほうへ向けられる。
 その眼差しに、忌み嫌うような冷たさが交ざっているのを感じ取った私は、思わず身構えてしまった。

「お噂の奥方かな?」
「妻の琴乃です」

 篤志さんが私の背にそっと手を添えながら、静かにそう告げた。

「琴乃と申します。お初にお目にかかります」

 私はていねいに頭を下げて挨拶をした。
 だけど、萬代氏の目に浮かぶ探るような気配は微塵も変わらない。

「奥方はたしか……桐ケ谷先生のお嬢さんでしたな」

 その言い方には、はっきりとした含みがあった。
 うしろにいた夫人も、扇子で口もとを覆いながら、こちらをチラチラとうかがうように見ている。

「私もご挨拶させていただきますわ」

 そのとき、萬代氏の後ろに控えていた若い女性が、興味津々といった様子で前に進み出てきた。
 涼し気なワンピース姿で、大きな瞳をしたその女性は、私と同い年くらいに見える。

「はじめまして。萬代紹子(しょうこ)と申します」

 紹子さんは私にそう名乗りながらも、篤志さんへ熱っぽい視線と笑みを送っていた。
 それは単なる愛想笑いとは違う、明らかな好意が滲んでいる。

「天澤様には、ずいぶん前に夜会でお会いしましたわよね。お忘れでいらっしゃいませんこと?」
「……ご挨拶いただいたことは覚えています」
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