死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 篤志さんの口調は、あくまで事務的だった。
 だけど紹子さんはそれに構わず、私のほうへ値踏みするような視線をよこした。

「あなたが、天澤様の奥様……」

 じろじろと無遠慮に見つめられ、私は静かに会釈をしたものの、どう反応すべきか一瞬迷ってしまう。
 彼女はそのあと鞄から取り出した白いレースのハンカチを、自分の口もとに押し当てた。
 まるで私と同じ空気を吸いたくないとでもいうように……。

「最近、あなたのことが街中で噂になっているのよ。ご存じ?」

 紹子さんはハンカチ越しにくぐもった声でそう言いながら、侮蔑するような瞳で微笑んだ。

「天澤様のお屋敷で食中毒の騒ぎがあったとか。……それも、労咳で家族を全員亡くされた方を、嫁として迎えたあとに」

 その発言によって、場の空気が一瞬で凍りついた。
 私もここまではっきり言われるとは思ってもみなくて、しだいに動悸が激しくなってくる。

「紹子、それ以上は……」

 萬代夫人があわてて娘をたしなめようとしたが、紹子さんは止まらなかった。
 それどころか、まるで穢れたものでも見るかのように、あからさまに眉をひそめた。

「だって気になるじゃありませんか。死病の家系の娘を娶ったせいで、案の定、不幸が起きたのでしょう? 天澤様ほどのお方が、どうしてわざわざそんな縁起の悪い女性を選ばれたのか、不思議で仕方ありませんの」
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