死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 彼女はわざとらしく私から一歩距離を取り、持っていたハンカチで洋服の表面を軽く払うような仕草をした。それはどう考えても、あからさまな拒絶の態度だ。

「嫌だわ。近づきすぎたかしら。こうしてお話ししているあいだにも、移ってしまうかもしれないのに」

 紹子さんがハンカチを再び鼻先まで近づける。
 こんなにもはっきりとした悪意を向けられたのは久しぶりだ。

「紹子は心配性なんだから」

 萬代夫人までもが、扇子の陰でクスクスと笑いながら加勢する。

「お母様も離れたほうがいいわ。労咳は死に至る病として昔から恐れられているんだもの。それにしても天澤様は、思い切ったご決断をなさったこと」

 母娘そろって示し合わせたかのように、私を遠巻きに見つめながらあざ笑うような笑みを浮かべている。
 紹子さんの話し方は、世間話をしているみたいに軽やかだったけれど、私にはそれがかえって残酷だった。
 
 父も、母も、弟も、最後まで必死に病と闘っていた。
 その死を、こんなふうに‟縁起が悪い”のひとことで片づけられ、呪われた家だと言われることに、深く胸がえぐられる。
 何か言い返さなければ。だけど、喉の奥がキュッと絞まって、うまく声が出てこない。
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