死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「紹子さん」

 低い声が耳に届き、篤志さんが私をかばうように一歩前へ出た。

「今のあなたの発言は、聞き捨てなりませんね」
「わ、私はただ真実を……」

 紹子さんが急にたじろぎ、言葉を詰まらせる。

「琴乃は私の妻です。彼女の家族が次々と病に倒れ、彼女自身がどれほど誠実に、懸命に生きてきたか。それを何も知らないあなたに、侮辱される謂れはない」

 篤志さんの声は決して大きくなかったけれど、その場にいた全員を凍てつかせるほどの迫力があった。
 真っすぐな彼の言葉が、私の胸を激しく震わせる。

「先日の一件も、母たちが軽症で済んだのは、妻が的確な処置をしたからです。彼女がいなければ、もっと深刻な事態になっていたでしょう。それを、‟死病を出した家の娘を娶ったからだ”などと言いがかりをつけるのは、あまりにもひどいと思いませんか」

 桐ケ谷家の労咳と、天澤家の食中毒に、直接的な関連はない。それはみんなわかっているはずなのに……。
 彼は理不尽だと訴えながら、萬代夫妻のほうへも視線を移した。

「萬代様。あなたが取引先に対して、天澤家のことをどのように話されているのかも承知しています。商売敵として競い合うのは結構ですが、人をおとしめて自分が優位に立とうとするやり方は好みません。妻を傷つけるなら、看過できかねます」
「天澤様、娘が大変失礼を……」
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