死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
 萬代氏があわてて取り繕おうとしたが、彼の視線の鋭さに圧倒され、それ以上言葉が続かなかった。

 私は、怖気づきそうになる自分を必死に抑えながら、一歩前に出た。
 篤志さんにかばってもらったまま、黙って耐えているだけではダメだ。
 ここで何も言わずに引き下がれば、父や母、千太の存在までもが否定されてしまうような気がした。

「萬代様」

 私が話しかけると、紹子さんが驚いたようにこちらを見た。ハンカチを口もとに当てたまま、瞳がとまどうように揺れている。

「労咳が恐ろしい病であることは、私自身、誰よりもよく存じております。大切な家族を、あの病で亡くしましたから」

 私は声が震えそうになるのを必死にこらえた。
 下を向くなと自分を奮い立たせ、しっかりと前を見据える。

「ですが、正しい知識さえあれば、家庭内での感染をある程度防ぐことができる病でもあります。日々の消毒、部屋の換気、看病する者と患者の距離の取り方……父はいつもそう教えてくれました。先日の食中毒騒ぎのときも、私はそれを思い出して家族を看病することができたんです」

 紹子さんは、何も言い返せずに黙り込んでいる。
 医者として真摯に病と向き合ってきた父の名誉のためにも、ここで発言をやめるわけにはいかない。そう思い、スッと背筋を伸ばした。
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