軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜



 ──脳裏に、深緑色の野戦テントの天井が広がる。
 外では銃声が鳴り響いていた。
「夜襲です! 負傷者が次々と運び込まれています!」
 横を見ると、無数の傷ついた兵士たちが担架で運ばれ、衛生兵たちが狂乱の中で走り回っていた。
 その中央に──将臣がいた。
(──っ! 左頬から血がっ!)
 軍服には大量の血の染みが広がり、大声で指示を飛ばしている。
 地獄のような光景の中、血に塗れた将臣がこちらへ駆け寄ってきた。
 必死な、今にも泣き出しそうな顔で自分を覗き込んでくる。
「死ぬなっ! 桐谷! 頑張って耐えろっ、すぐに手当てしてやるから!!」
「安藤軍医! 骨折の患者です!」
 衛生兵が半狂乱で叫ぶ。
「待てっ、今行く!!」
「軍医殿っ! 助かる者から処置をしなければ隊が全滅しますっ!!」
 咆哮のような衛生兵の声。
「……っ、わかった! せめて水だけでも……っ!」
 将臣が深緑の水筒を手に取らせる。
「少し飲むんだ、桐谷っ!」

(っ!!……これは……兄様が見ている光景……!)

「自分は……平気です。……軍医……もう、行ってください……」
 兄の掠れた声。
「すまんっ、すまない! 桐谷……っ!」
 苦渋の表情で立ち上がった将臣は、二度と振り返ることなく怪我人の元へ走っていった。
「脛骨(けいこつ)骨折だっ! 副木(そえぎ)固定をするっ!!」


 ──それでいいんだ……安藤軍医。 
 あなたは少ない犠牲で、たくさんの仲間を救った。
 あなたは……立派な軍医だ。

 そして、景色がゆっくりと暗転した。










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