軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜



 すぐに追いつき、将臣は後ろから凪の腕を強く掴んだ。そのまま、勢いよく胸の中へ抱き寄せる。真っ白な足袋は、泥に染まっていた。
「将臣様……っ」
 凪はなされるがまま、将臣の強い腕の中に閉じ込められた。息が止まる。
 将臣が短く速い呼吸を繰り返すと、凪の胸が潰れそうになる。
「逃がさん……絶対に、手放すものか……っ」
 言葉にならない掠れ声とともに、将臣の手が凪の後頭部を包み込み、引き寄せる力が痛いほど強くなった。髪飾りがズレて落ちるのも構わず、耳元に荒い吐息が吹きかかる。

「戦地で結菓子を食べるたびっ……無事に帰れたら、絶対に凪に会いに行くと決めていたっ!!」


 ──将臣の脳裏に、あの夜の光景がよみがえる。
 眠ることさえ怖かった、戦地の夜。
 目を閉じれば、救えなかった仲間たちの姿が浮かぶ。
 そんな時、懐に入れていた結菓子を口にした。
 ふわりと広がった甘さと、ニッキの香り。
 張り詰めていた心が、不思議なほど緩んだ。
(……この菓子を作った娘に、会ってみたい)
 それから結菓子を食べるたび、将臣は同じ願いを胸に抱いた。
(生きて帰ったら……凪に会おう)と──


 凪は、力強く抱きしめられる腕の中で顔を上げる。
「桐谷からお前を託されたのが、理由なんかじゃないっ!」
「……え……?」
 将臣はひとつ大きく息を吸い込むと、魂を叫ぶように吐き出した。
「俺がっ!! お前を選んだんだ!!」
 凪は目を大きく見開き、呆然と将臣の言葉を聞いていた。
ふっと腕の力が解かれ、両肩を強く掴まれる。
「もう……卑怯者にはならないっ」
 将臣のまっすぐな瞳が、凪の視線を射抜いた。
「私はもう逃げない。全部、自分で終わらせてくる」
「何を……」
 言葉を失う凪を、将臣は逃がさないように再び固く抱きしめた。
 腕の中にある、確かな愛しいぬくもりを噛み締めるように。
「だから……頼むから、待っていてくれ……っ!」





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