軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
3話 二人と猫の居場所
「母屋を案内しておこう」
将臣は廊下を歩きながら、屋敷の中の説明をしてゆく。
「正面が父上と母上の居室だ。その隣が応接間。来客はそこで迎える」
凪は静かに頷きながら後に続く。
「裏手には炊事場と納屋がある」
その時、廊下の向こうから三人の男女が歩いてきた。将臣を見ると、足を止め一斉に頭を下げる。
「将臣様、お帰りなさいませ」
将臣は軽く頷いた。
「紹介しておこう」
三人へ視線を向ける。
「女中のサト。下男の遠藤。そして父上の御者を務める伊東だ」
三人は改めて凪へ向き直る。
「奥様、よろしくお願いいたします」
凪は慌てて深く頭を下げた。
「こちらこそ……よろしくお願いいたします」
サトは表情を変えず、遠藤は実直そうに頭を下げる。伊東も静かに一礼するだけだった。
誰も無駄なおしゃべりはしない。この静けさが、この家の日常なのだと凪は悟る。
麒麟堂では父と兄、それに自分の三人で店を切り盛りしていた。薬草を干し、薬を挽き、客を迎える。すべて自分たちの手で行っていた。
けれど、この家には使用人が主人を支えている。この家では、自分は世話を受ける立場なのだ。
(私なんかが……本当に、この家へ嫁いできてよかったのかしら)
家柄も生きてきた世界も違う。場違いな場所へ足を踏み入れてしまったような心細さが、凪の胸に静かに広がっていった。