軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
凪は部屋から縁側へ出て庭を見た。
塀の手前には石で囲った小さな畑があった。凪はじっとそこを見ている。
「あの畑……」
「片付けは終わりそうか」
後方から将臣に声をかけられる。
「は、はいっ。荷物は少ないので。……ただ」
「どうした?」
「なぜ、私がこちらの部屋をいただけたのでしょうか?」
「私は夜遅くまで仕事をするからな。寝室も別がいいだろう」
「そうではなく…… こちらの南向きの部屋は、将臣様がお使いになったほうがよろしいのではないでしょうか」
ここの主人である将臣の書斎と寝室は、東の部屋に誂えていた。凪はそれが不思議だった。
「女性の身体は冷やさぬほうがいいだろう」
「え?」
「いや、医者だとついそんなことを……」
将臣は軽く咳払いをした。
(そのような細かなことまで……⁈)
「……お気遣いありがとうございます」
将臣の温かさに触れ、凪は胸がいっぱいだった。
「私も、食事やお掃除を頑張りますっ」
「母屋の手は借りないが、遠藤は私の下男だ。何かあれば、協力してもらいなさい」
「いいえっ。ここは炊事場も竈もあります。二人だけの生活なら、私一人でも十分です」
「無理はするな」
「はい。では早速、夕餉の準備に取り掛かります」
将臣は返事の代わりに、柔らかく目を細めた。
その笑顔を見た凪も、つられるように笑みを浮かべた。
しばらくすると西陽が落ち、庭の小さな畑を夕暮れの茜色が優しく包み込んでいった。