軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
6話 あなたと過ごす日常



 翌朝。
 朝日が窓越しに差し込み、炊事場には湯気と味噌の香りが満ちていた。
 鍋の蓋を開けると、ふわりと立ちのぼる湯気に頬が緩む。
(昨日のことが、夢みたい)
 将臣は、自分の異能を呪いとは言わなかった。
 ——俺にはありがたい力だ。
 その一言が、胸の奥で何度も静かに響いている。
 凪は思わず口元を押さえ、小さく笑った。

「……おはよう」
 居間から聞こえた声に、凪は振り返る。
 将臣が寝癖を少しだけ残したまま廊下へ出てきた。
「お、おはようございます」
 凪はぎこちなく頭を下げる。
 昨日より少しだけ、空気が柔らかい。
 その時だった。

「にゃぁぁぁ……」
 弱々しい鳴き声が足元から聞こえた。
 二人は同時に視線を落とす。
 結丸がしっぽを持ち上げたまま、しきりに先端を舐めていた。
「結丸?」
 凪がしゃがみ込む。
 いつもなら真っ先に朝餉をねだるはずなのに、今日は元気がない。
 しっぽをそっと覗き込んだ将臣の表情が変わる。
「……少し診せてみろ」
 将臣は結丸をそっと抱き上げると、膝の上へ乗せた。
「暴れるな」
 低く声をかけると、不思議なことに結丸は「にゃ」と短く返事をして、おとなしく座り込む。
 将臣はしっぽを指先で持ち上げ、根元から先までゆっくりと確かめていく。
「痛っ」
 先端に触れた途端、結丸が爪を立て小さく身をよじった。
 将臣の眉がわずかに寄る。
「鋏を持ってきてくれ」
「はい」

 凪は棚から小さな鋏を取り出し、将臣へ手渡した。
 将臣は結丸を安心させるように喉元を軽く撫でながら、患部の周りだけ毛を少しずつ刈っていく。
「もう少しだからな」
 声まで優しい。
 毛の下から現れた皮膚は赤く腫れ、一部が爛れている。掻き壊した跡だった。
 将臣は静かに息をつく。
「皮膚炎だ」
 凪も身を寄せ、患部を覗き込んだ。
「こんなに赤く……」
「痒くて舐めた上に、さらに掻いて悪化したんだろう」
 将臣は結丸のしっぽをそっと撫でた。
「これは、結丸も辛いですね。まずは、軟膏で炎症を抑えてあげたいです」
「ああ。それがいいな」











 


 
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