軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
将臣の声を合図に、凪は棚から乳鉢を取り出し、乾燥させておいた薬草を並べた。
「炎症を抑えるドクダミと、皮膚を守る紫根を少し。それから──」
手際よく薬草を乳鉢へ入れ、乳棒でゆっくりと擦り合わせていく。薬草の青い香りが、部屋いっぱいに広がった。
将臣は結丸を膝に抱き、赤く腫れたしっぽへ濡れ布を当てて熱を取っている。結丸は気持ちよさそうに目を細め、小さく喉を鳴らした。
「傷の手当にも、ずいぶん慣れていますね」
「ああ。軍では薬の調合も見てきた。だが、ここまで細やかな仕事は薬師の役目だったがな」
凪は、戦地で将臣の隣で薬を調合する兄を思い浮かべて、少しだけ誇らしい気持ちになる。
「私も……兄に叩き込まれました」
軟膏に椿油を落とし、ゆっくり練り合わせる。
「これくらいでしょうか」
乳鉢を持ち上げようとした、その時だった。
「貸してくれ」
将臣も同じように手を伸ばす。指先が触れそうになり、二人ともぴたりと動きを止めた。
「あ……」「……」
一瞬、至近距離で視線が絡み合う。
昨日までなら気まずさに耐えかねて俯いていた。けれど今日は違った。二人とも小さく息を飲み、そっとお互いに手を引く。
「す、すみません」「すまない」
声が重なった。
思わず顔を見合わせると、おかしくなってしまう。どちらからともなく、小さく笑みがこぼれた。
(なんだか、不思議……)
胸の奥がキュッと小さく高鳴っている。それなのに、少しも怖くない。
(将臣様のそばは……心が落ち着く……)
凪は軟膏を木べらで掬い、結丸のしっぽへ優しく塗った。
将臣はその様子を静かに見つめる。
(最近、凪はよく笑うな)
怯えたように視線を伏せることも少なくなった。その変化が、なぜだか嬉しかった。ふと、将臣の口元が自然と緩む。
それに気づいたのは、結丸だけだった。
「にゃあ」
甘えるように鳴く結丸へ、将臣は苦笑しながら喉を撫でる。
「もう少しで治るからな」
結丸は安心したように目を細めた。
その時だった。
「おい、結丸!」