軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
凪も部屋へと戻り、薬草を風呂敷に包んだ。
すると、結丸が足元で手拭いを引っ張り出し、その上にゴロンと寝そべった。見慣れない古びた手拭いに、凪は首を傾げる。
「結丸。それ、どこから持ってきたの?」
凪が手拭いへそっと指を触れた、その瞬間だった。
突如として見知らぬ映像が脳裏へ直接流れ込んできた。
一人の少年が、ぐったりと動かない白い子猫を必死に胸に抱きしめていた。その子猫を包んでいるのが、この手拭いだ。
『父上! お願いです、この子を助けてあげてください……っ!』
涙ながらに懇願する少年が対峙しているのは──威厳に満ちた、憲一。
なら、この震えている少年は……幼い頃の将臣様……⁉︎
『将臣。その猫はすでに衰弱しておる。病がうつる前に捨ててきなさい』
冷酷な一言に、将臣は唇を血が出るほど噛み締め、悔しそうに父を見上げていた。
そして視界が歪み、周囲が暗転する。
そこは、母屋の端にある古い井戸の陰。
夜の闇に紛れて将臣が、地に横たわる子猫のもとへ駆け寄っていた。恐る恐る屈み込み、子猫にそっと触れる。
『冷たいっ……』
小さく絶望の声を漏らすと、将臣は小さく丸まり、膝に顔をうずめた。
そして、声を殺してしゃくりあげて泣いた。涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、冷たくなった子猫を見つめながら、ぽつりと呟いた。
『もう……二度とっ、見捨てたくない……っ!』