軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
針先が皮膚へ入ると、ぷつり、と小さな音がした。糸が皮膚を引き寄せ、裂けた肉が少しずつ閉じていく。
男は苦痛に顔を歪め、唇を噛み締めた。
傷から視線を逸らさない将臣の額には、薄く汗が浮かぶ。
それでも指先は、一度も迷わなかった。
凪はその後で処置を見守る。
(命を助けるって……薬を作るだけじゃない)
(こんなにも苦しくて……こんなにも恐ろしいことなの?)
また針が通る。ぷつりと皮膚から音がして、血がじわっと染み出す。開いている傷口が、徐々に繋ぎ合わさっていく。
「うっ……つっ……」
部屋に男性の小さな呻き声が、響く。
その時、凪の視界がぐらりと揺れた。
(あ……目が)
次の瞬間、膝から力が抜けてしまった。
「凪⁉︎」
将臣に名を呼ばれて、はっと意識が戻った。
なんとか倒れないように、壁へ手をついた。そして、大きく息を吸って、浅くなった呼吸を整えた。
「……申し訳、ありません」
将臣は一瞬だけ凪を見た。
「無理をするな」
それだけ言うと、すぐ患者へ視線を戻す。
その短い一言が、不思議なくらい温かかった。
「こちらへ」
妻が心配そうに凪の手をとり、少し離れた場所へ身体を移してくれた。