軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
8話 雨宿りと、あなたのぬくもり
からっとした秋の空気が心地よい日。
二人は近所の秋祭りに出かけることになった。
凪は淡い撫子色の浴衣に小さな巾着を手にし、将臣は濃紺の着流しに羽織を引っかけている。
(軍服のときよりも、肩の力が抜けている。けど……大人の男性の佇まい)
凪は横に並びながら、こっそりと将臣を見て、頬を赤らめた。
祭り会場では、飴細工や金平糖、香ばしい焼き団子などの屋台が立ち並び、射的や輪投げの店には人だかりができていた。境内のあちこちから子どもの歓声や下駄の音が響き渡り、熱気に包まれている。
その賑わいの中で、凪はまるで子どものように目をキラキラと輝かせていた。
「すごい……食べ物も、遊ぶところもたくさんあって。みんな楽しそう……!」
「そんなに、珍しいか」
「私、お祭りに連れて行ってもらったことが一度もなくて……」
凪が少し照れくさそうに小さく笑う。
それを聞いた将臣は、一瞬言葉を詰まらせた。だが、すぐに気を取り直すように、射的の屋台へ視線を向けた。
「凪もやってみるか?」
「え?」
「初めてなら、どれも新鮮だろう。来なさい」
「は、はいっ!」
凪の瞳がぱあっと輝いた。
「私……ものすごく下手で、一個も落とせませんでした……」
景品をひとつも取れず、しょんぼりと下を向く凪に、将臣は呆れたように小さく息を吐いた。
「……何が欲しかったんだ」
凪ははっと顔を上げた。
「……キャラメルです!」
「ふっ……」
将臣は思わず吹き出してしまった。
「それでいいのだな」
将臣は銃を構えた。片目を薄く瞑り、真剣な眼差しで狙いを定める。その額から前髪が一束、はらりと落ちた。
(かっこいい……)
凪は思わず、胸の奥で息を詰めた。
直後──ポンと乾いた音が響き、目当ての小箱がゴロンと棚から転がり落ちた。
「す、すごいです! 取れました!」
弾んだ声で喜ぶ凪に、将臣は落としたキャラメルを手のひらへ乗せてやる。
「ほら。持っていきなさい」
「あ、ありがとうございます! 後生大事に、少しずつ食べます!」
「もっと気軽に食べればいいだろう」
呆れながらも、将臣の口元は緩みっぱなしだった。