軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
夕方、帰宅した将臣の部屋へ、晴臣はずかずかと入った。
「なあ、兄上。今日のこと、父上に言いつけるのか?」
将臣は怪訝そうに眉を寄せる。
「何のことだ」
「凪さんに暴言を吐いたことだよ! 兄上は、すっごい怒っていただろう⁈」
将臣は呆れたように、静かに息をついた。
「言いつけるわけがないだろう。凪は晴臣と買い物ができて楽しかったと言っていたぞ」
晴臣は言葉を詰まらせ、ぐっと唇を噛む。
「……じゃあ、兄上は何をしに買い物に来たんだよ!」
「……簪を買いに、な」
少し照れくさそうに将臣が目を細める。
晴臣は目を見開いた。
「……凪さんへ?」
「買えなかったがな。凪に似合うものを、また今度買いに行く」
その柔らかく温かな横顔から、晴臣は目が離すことができなかった。
(兄上は……俺には、あんな顔を見せたことなんてないのにっ!)
気がつけば、晴臣は唇の内側を強く噛み締めていた。
二人だけの世界から、一人だけ弾き出させたような嫉妬と寂しさが、晴臣の心を黒く塗り潰していた。