軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
帰りの馬車を待つ間、薫子はそっと晴臣へと近づく。
「お兄様は、凪さんを嫁にすることで昇進を諦めたようね。本当に、残念だわ」
薫子が重いため息をついてみせる。
「えっ?」
晴臣の瞳が大きく揺れる。
「本気で軍医総監を目指すなら、もっとお立場のあるご令嬢との縁談を組むべきでしたのに」
それは自分と言わんばかりに、胸元にそっと手を添える。
晴臣は、瞬きせず一点を見つめる。
(凪さんとの婚姻のせいで、兄の昇進がなくなる……?)
手を拳に変え、力を込める。
(……兄上が損をするのは、許せない!)
さっと顔色が青ざめた晴臣は、薫子を見た。
「薫子さん……」
「なあに」
「兄と一緒に、簪を買いに行ってくれませんか。兄は一人では選べないんですよ」
晴臣の声が少しだけ、うわずっていた。
薫子は一瞬目を丸くしてから、ふっと満足そうに細めた
「まあ。将臣様のお役に立てるのなら、喜んで」
薫子の目が、綺麗な三日月になった。