軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜



 胸の奥が嫌な音を立てて波打ち始める。その時だった。
「将臣様! おかえりなさいませ」
 畑のカミツレの中で、凪がぽつんと立っていた。
 前髪を額に貼り付けて、鼻先には土がついている。その愛くるしい姿を目にした瞬間、将臣は心の底からほっと息を吐いた。
「……凪……そこにいたのか」
 胸の鼓動を鎮めるように、将臣はここでようやく頭の軍帽を脱いだ。
「薬草の手入れか?」
「はい。みんな元気に育っています。畑を作っていただきありがとうございます」
 いつもの凪の笑みだった。
「頑張っているな」
 将臣の肩の力が抜ける。
「夕食は私が並べておく。凪は顔を洗ってきなさい」
「よろしいのですか?」
「当たり前だろう」
 そう短く言うと、将臣はくるりと背を向けて炊事場へと消えていった。


 衣を整えた将臣は炊事場に立った。
 将臣は夕餉を並べながら、ふと手を止めた。腰に手を当て、しばらく動かない。だがその横顔は、いつになく柔らかく綻んでいた。
 可憐な花畑の中で、顔に土をつけて微笑む愛らしい凪の姿を思い返す。
(まいったな。あの姿……)
 その時、足元にぬっと結丸が寄ってきた。
「……お前も見ていたのか?」
「にゃあ」
「……だな。ああいう姿も……うん、可愛いな」
 結丸にだけ聞こえるような低い声でぽつりとこぼし、将臣は目尻をくしゃりと下げて笑った。





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