軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
その瞬間、薫子の表情から一切の温度が消えた。
纏う空気がビリっと鋭くなる。
「凪さん、本当に薬草にはお詳しいのね。さすが──町の薬屋の娘さんね」
薫子の目が完璧な三日月を作る。
和やかだった空気が、一瞬で凍った。
令嬢たちの鋭い目が、一斉に凪に向かう。
「……町の、薬屋の娘ですって?」
「軍医少佐の奥様には、ちょっと……」
「薬屋の娘が選ばれるなんて、聞いたことがないわ」
令嬢たちは口々に手を当て、こそこそと囁き合う。
先ほどまで尊敬の眼差しが、一気に冷ややかな視線へと変わった。
凪は息が詰まり、握った手には汗が滲む。
見る見る顔色を失う凪を見つめ、薫子の三日月の目だけが微笑んでいた。
「皆さん、そのくらいにして差し上げて」
ようやく周囲を制した。
「凪さん。ご立派な趣味ですわね。でも……それだけで軍医の旦那様をお支えできるのかしら?」
薫子は笑みを浮かべたまま、小首を傾げた。
「出世できるお薬でも煎じればよろしいんじゃないの」
「やだあ、富美子さんたら!」
令嬢たちの冷笑が茶室に響き渡る。
(私は……この世界には、入れない)
ぎゅっと握りしめた着物の袖の中に、アカギレの手を隠す。
(将臣様の足を引っ張るような存在になりたくない。……私にできることで、少しでも将臣様のお役に立ちたいのに……)
込み上げる惨めさを押し殺すように、凪は無理に笑ってみせた。