軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
庭で洗濯物を干していると、玄関先で戸を叩く音が響いた。
凪は急いで玄関へと走る。
戸を開けると目の前にいたのは──あの千代だった。
「千代さんっ! どうなさったの?」
「その節は、お助けいただき本当にありがとうございました。お礼に伺うのが遅れてしまいまして」
千代は深くお辞儀をした。
「では、今は麒麟堂で?」
千代はこくりと頷いた。凪はほっと胸を撫で下ろした。
「ですが……麒麟堂のことで、お嬢様にお知らせしたいことがございまして」
千代の言葉に、凪の胸がきゅっと固く締め付けられる。
「……父上の体調は、良くなっていないのですね?」
声が震えそうになるのを必死に抑えて問いかける。
千代は怯えるような目で小さく頷いた。
「奥様は薬だけは忘れずに飲ませてくださるのですが……それ以外は、あまりにも冷たいんです……。私も見ているのが辛くて……」
脳裏に、義母の冷たい視線と、床に伏せる父の姿が重なる。
凪は一度固く目を閉じると、乱れそうになる呼吸を深く吐き出して整えた。
ぎゅっと両拳を握りしめ、千代の目を見つめ返す。
「千代さん。勇気を出して知らせてくれてありがとう」
怖れを振り払うように凛と顔を上げると、凪は迷いのない声で言った。
「行きます。今から、麒麟堂へ」
その胸には、父を案じる思いが募っていた。