軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
18話 消えた薬、偽りの病



 朝餉を終えた将臣は、医学書の整理をしていた。数冊まとめて持ち上げて、気がつく。
「……痛まないな」
(傷は塞がった)
 本を移し替え、窓を開けた。庭には、凪が干した着物が風に軽やかに揺れていた。畑では薬草の白い小花が、庭に静かな彩りを添えていた。
 部屋を見返せば塵ひとつない畳に、床の間には一輪の生花。
(凪が来てから、私の生活には色が戻った)
「すべて……凪のおかげだ」
 将臣は引き出しから小さな箱を取り出した。中には自ら選んだ簪が入っている。凪に一番似合うであろうものを選んだ。
 箱を持つ指先に、自然と力がこもる。
(今日こそ、伝える)
 将臣は凪の部屋へと向かった。

 凪は鏡台の前に座りながら鏡の中の自分を見ていた。
(いつまで、ここにい続けるつもり? それは将臣様のためにならないのに)
 目を伏せて、ひとつ息を吐いた。次に目を開けると、その瞳には決意が宿っていた。
(きちんと、伝えよう)
 すっと立ち上がり、鏡に布をかけた。
 その時、襖の奥から将臣が声をかけた。
「凪。少し、いいか」
「は、はい」
 突然の訪問に、凪は着物の襟を整える。
「どうしましたか」
 すっと襖を開けると、「話がある」と将臣が入ってきた。
 その手には簪の入った箱が握られている。
 しかし、凪の視線は将臣の顔にしか向かない。
「私も、お話があります」
 向かい合った二人は、互いの緊張が伝わったかのように立ち尽くした。
 先に、将臣が咳払いをした。
「凪」
 箱に指を掛ける。
「これを──」
 将臣が箱を開けようとした、その時だった。







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