軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
「こんにちは。千代でございます」
玄関からの訪問に、二人は一斉に振り返った。
「千代?」
将臣が首を傾げた。
千代の二度目の訪問に、不穏を感じた凪は、何も言わずに玄関へと小走りで駆け出した。将臣もそれに続いた。
「お嬢様! よかった、いらして!」
泣き出しそうな千代の顔を見て、将臣が驚いた。
「あなたは……!」
「千代さんは、麒麟堂で父の世話をしてくれています」
凪は手短に答えると、泣きべそをかく千代へと駆け寄る。
「どうなさったの⁉︎」
「お嬢様! 旦那様は、本当に死んでしまうかもしれません! 私、もう見ていられなくてっ!」
強く握った袖を目元に当てた。
「それに、最近の奥様も少しおかしいんです! 私なんかにお金を無心したり、ずっと不機嫌でいらっしゃるんです」
「お義母様が……お金を無心?」
あの日、実家から無理やり追い出された光景が、まざまざと蘇った。
つい、手に力がこもった。
(敷居は跨ぐなと言われても……私の生家には違いない。心配するのは当然のこと!)
その瞳に光が宿った。
「父上を……助けに行かないと。将臣様、これから実家へ行って参ります!」
返事を尋ねることなく、凪は言い切った。
将臣も、いつもの怜悧な目になっていた。
「……もちろんだ。私も、一緒に行く」
「でもっ、将臣様はお怪我が治ったばかりです。無理はさせられません!」
「私の義父上だぞ。心配するのは当然だろう」
凪を見下ろすその目は柔らかかった。
「将臣様……」
(私の父のことも、受け入れてくれている……)
凪はぎゅっと手を組んだ。
「……とても、心強いです」
「すぐに、出よう」
「はい!」
三人は麒麟堂へと向かった。