シスコン令嬢 〜妹のためなら喜んで悪役になってみせますわ!〜
第二章 なんだか、使用人からこわがられていますわ
「リリアお嬢さま、いかがなされましたか!大きな声が聞こえたのですが――」
そのとき、メイド服を着た使用人が慌てて部屋に入ってきた。
リリアに転生したことがショックで、発狂してしまったわたし。
そのままの顔を使用人に向けると、なぜかぎょっとした表情をされた。
「ノ…ノックもせずに失礼いたしました…!命だけはご勘弁ください…!」
そうして、ものすごい勢いでドアを閉めていってしまった。
な、なんか…こわがらせた?
もしかして、驚いたときのままのこの顔のせい?
両手で顔をはさみ、もみゅもみゅと表情をほぐした。
それにしても、リリアってスマホの画面で見るよりもめちゃくちゃ美人。
性格は悪いけど。
握りこぶしに収まるくらいにちっちゃな顔。
シミひとつない、卵のような艶のある肌。
わたしは長期の闘病生活で、腕は注射や点滴の針の痕だらけ。
頬も痩せこけて、ハリがなくなっていた。
それが、こんなにぷるんぷるんの肌に生まれ変われるとは。
すると、ドアがノックされる音がした。
「失礼いたします、リリアお嬢様」
入ってきたのは、わたしのおばあちゃんくらいの歳の使用人。
この人はたしか、屋敷の使用人たちをまとめる責任者だったような。
それに、リリアとマリアが生まれたときから世話している、ばあやだ。
この家のことならなんでも知っている、物知り設定のキャラ。
そのばあやの後ろにいるのは、さっき部屋を飛び出した使用人だ。
わたしに対して、ビクビクしながらお辞儀をする。
わたし、なんかしたっけ?
「先ほどは、この者がノックもせずに入室したとのこと。大変失礼いたしました。わたくしもお詫びにうかがった次第です」
そう言って、ばあやも深々と頭を下げた。
…へ?ノック?
もしかして、それだけのことで謝りにきたの?
「頭を上げてください…!さっきはわたしが大声を上げたから、なにかあったと思って慌ててきてくれたんですよね?」
「はい…」
「だったら、わざわざノックなんて必要ありませんよ。だって、もしわたしの身になにかあったら、それどころじゃないですから」
すると、使用人が突然涙を流しはじめた。
…な、なんで!?
あまりにも泣き崩れて、ばあやの肩を借りなければ立っていられないほどだ。
「まさか、リリアお嬢さまがそのようなお言葉をかけてくださるなんて…予想外でっ」
「お許しいただけてよかったわね。沈められなくて」
「“沈める”…!?」
ばあやの言葉に、わたしは即座に聞き返す。
「ええ。リリアお嬢さまの口癖ではありませんか」
「口癖?」
「気に食わないときは『沈めるわよ』と脅されて、これまで何人もの使用人が命の危機を感じて辞めたことか…」
…えええええ!?
リリア、めちゃくちゃこわいんですけど…!
だから、さっき――。
『ノ…ノックもせずに失礼いたしました…!命だけはご勘弁ください…!』
“命だけは”って、大げさだなとは思っていた。
でも普段のリリアは、ノックもしないで使用人が入ってきたら相当怒るのだろう。
さらに、発狂したときの変な顔で見たものだから、にらまれたと勘違いしちゃったのかな。
それでこの使用人は、リリアに沈められると恐怖を感じて、責任者のばあやといっしょに謝りにきたというわけか。
この世界でどれだけ性格悪いのよ、リリアって。
「リリアお嬢さま。本日は、お嬢さまのお好きな菓子店より、クッキーとチョコレートをご用意いたしました」
もしリリアが機嫌を損ねてしまった場合に備えて、好物を用意したということね。
さすが、ばあや。
「ちょうどお時間ですので、お茶にいたしましょうか」
ばあやがパチンと手をたたく。
それを合図に、さっきの使用人が部屋のテーブルにお茶とお菓子の準備をする。
時計を見ると、ちょうど三時を指し示していた。
ただよってくる紅茶のいい香りに誘われる。
「どうぞ、お召し上がりください」
ふかふかのソファに浅く座る。
目の前のテーブルには、湯気立つ紅茶の入ったティーカップ。
それに、クッキーとチョコレートが盛られたバスケットが並べられていた。
…紅茶!
…クッキー!
チョコレート…!!
闘病中、カフェイン摂取はだめだったから紅茶は飲めず…。
もちろん、クッキーなどの甘いものも禁止されていた。
だから、絶対チョコレートなんて口にしてはいけなかった。
それが今、すぐ手の届くところに…!
何年ぶりのチョコレートだろう!
「…お嬢様、どうされましたか!?」
あまりのうれしさにわたしが涙を流すものだから、使用人が慌てて駆け寄ってきた。
「紅茶のご気分ではございませんでしたか?それとも、チョコレートが…」
「ううん、違うの。うれしすぎるだけ。ありがとう」
わたしが指で涙をはらいながらお礼を言うと、なぜか使用人はひどく驚いて固まっていた。
「リ…リリアお嬢様が、わたくしどもにお礼を…!?」
…え。
当たり前に、お礼を言っただけで…この反応?
「それにしてもおいしそう」
リリアが好きなお店のお菓子なだけに、これでもかというほどのクッキーとチョコレートがバスケットに入っている。
「でも、こんなにたくさんはさすがに食べきれないかな。よかったら、ふたりもいっしょにどうですか?」
そう声をかけると、なぜか後ずさりされてしまった。
「リ…リリアお嬢様が、わたくしどもを気づかわれるなんて…!」
「本当に。今日はどうされたのですか、リリアお嬢さま」
ふと、ばあやが窓の外に目を向ける。
「こんなにいい天気だけれど、このあと大雨にでもなるのかしらねぇ」
ひとり言なんだろうけど、わたしにまで聞こえている。
「わたくしどもは他にやることがございますので、そ…それでは失礼いたします…!」
そう言うと、使用人は逃げるように部屋から出ていってしまった。
ばあやもゆっくりとお辞儀をして去っていく。
あーあ、行っちゃった。
お見舞いのとき以外は病室にひとりきりだったから、せめて話し相手がほしかったのに。
わたしはティーカップを持つと、そっと口元へと持っていった。
「なにこの紅茶!おいしすぎる!!」
次にクッキーとチョコレートをひとつずつ摘む。
いつぶりかもわからないほどの甘いお菓子を摂取して、あまりのおいしさにわたしは悶絶していた。
――「マリアお嬢さまがお戻りになられました」
そのとき、部屋の外からかすかにそんな声が聞こえた。
マリアお嬢さまって…。
もしかして、このゲーム世界の主人公兼ヒロインの――。
…あのマリア!?
そのとき、メイド服を着た使用人が慌てて部屋に入ってきた。
リリアに転生したことがショックで、発狂してしまったわたし。
そのままの顔を使用人に向けると、なぜかぎょっとした表情をされた。
「ノ…ノックもせずに失礼いたしました…!命だけはご勘弁ください…!」
そうして、ものすごい勢いでドアを閉めていってしまった。
な、なんか…こわがらせた?
もしかして、驚いたときのままのこの顔のせい?
両手で顔をはさみ、もみゅもみゅと表情をほぐした。
それにしても、リリアってスマホの画面で見るよりもめちゃくちゃ美人。
性格は悪いけど。
握りこぶしに収まるくらいにちっちゃな顔。
シミひとつない、卵のような艶のある肌。
わたしは長期の闘病生活で、腕は注射や点滴の針の痕だらけ。
頬も痩せこけて、ハリがなくなっていた。
それが、こんなにぷるんぷるんの肌に生まれ変われるとは。
すると、ドアがノックされる音がした。
「失礼いたします、リリアお嬢様」
入ってきたのは、わたしのおばあちゃんくらいの歳の使用人。
この人はたしか、屋敷の使用人たちをまとめる責任者だったような。
それに、リリアとマリアが生まれたときから世話している、ばあやだ。
この家のことならなんでも知っている、物知り設定のキャラ。
そのばあやの後ろにいるのは、さっき部屋を飛び出した使用人だ。
わたしに対して、ビクビクしながらお辞儀をする。
わたし、なんかしたっけ?
「先ほどは、この者がノックもせずに入室したとのこと。大変失礼いたしました。わたくしもお詫びにうかがった次第です」
そう言って、ばあやも深々と頭を下げた。
…へ?ノック?
もしかして、それだけのことで謝りにきたの?
「頭を上げてください…!さっきはわたしが大声を上げたから、なにかあったと思って慌ててきてくれたんですよね?」
「はい…」
「だったら、わざわざノックなんて必要ありませんよ。だって、もしわたしの身になにかあったら、それどころじゃないですから」
すると、使用人が突然涙を流しはじめた。
…な、なんで!?
あまりにも泣き崩れて、ばあやの肩を借りなければ立っていられないほどだ。
「まさか、リリアお嬢さまがそのようなお言葉をかけてくださるなんて…予想外でっ」
「お許しいただけてよかったわね。沈められなくて」
「“沈める”…!?」
ばあやの言葉に、わたしは即座に聞き返す。
「ええ。リリアお嬢さまの口癖ではありませんか」
「口癖?」
「気に食わないときは『沈めるわよ』と脅されて、これまで何人もの使用人が命の危機を感じて辞めたことか…」
…えええええ!?
リリア、めちゃくちゃこわいんですけど…!
だから、さっき――。
『ノ…ノックもせずに失礼いたしました…!命だけはご勘弁ください…!』
“命だけは”って、大げさだなとは思っていた。
でも普段のリリアは、ノックもしないで使用人が入ってきたら相当怒るのだろう。
さらに、発狂したときの変な顔で見たものだから、にらまれたと勘違いしちゃったのかな。
それでこの使用人は、リリアに沈められると恐怖を感じて、責任者のばあやといっしょに謝りにきたというわけか。
この世界でどれだけ性格悪いのよ、リリアって。
「リリアお嬢さま。本日は、お嬢さまのお好きな菓子店より、クッキーとチョコレートをご用意いたしました」
もしリリアが機嫌を損ねてしまった場合に備えて、好物を用意したということね。
さすが、ばあや。
「ちょうどお時間ですので、お茶にいたしましょうか」
ばあやがパチンと手をたたく。
それを合図に、さっきの使用人が部屋のテーブルにお茶とお菓子の準備をする。
時計を見ると、ちょうど三時を指し示していた。
ただよってくる紅茶のいい香りに誘われる。
「どうぞ、お召し上がりください」
ふかふかのソファに浅く座る。
目の前のテーブルには、湯気立つ紅茶の入ったティーカップ。
それに、クッキーとチョコレートが盛られたバスケットが並べられていた。
…紅茶!
…クッキー!
チョコレート…!!
闘病中、カフェイン摂取はだめだったから紅茶は飲めず…。
もちろん、クッキーなどの甘いものも禁止されていた。
だから、絶対チョコレートなんて口にしてはいけなかった。
それが今、すぐ手の届くところに…!
何年ぶりのチョコレートだろう!
「…お嬢様、どうされましたか!?」
あまりのうれしさにわたしが涙を流すものだから、使用人が慌てて駆け寄ってきた。
「紅茶のご気分ではございませんでしたか?それとも、チョコレートが…」
「ううん、違うの。うれしすぎるだけ。ありがとう」
わたしが指で涙をはらいながらお礼を言うと、なぜか使用人はひどく驚いて固まっていた。
「リ…リリアお嬢様が、わたくしどもにお礼を…!?」
…え。
当たり前に、お礼を言っただけで…この反応?
「それにしてもおいしそう」
リリアが好きなお店のお菓子なだけに、これでもかというほどのクッキーとチョコレートがバスケットに入っている。
「でも、こんなにたくさんはさすがに食べきれないかな。よかったら、ふたりもいっしょにどうですか?」
そう声をかけると、なぜか後ずさりされてしまった。
「リ…リリアお嬢様が、わたくしどもを気づかわれるなんて…!」
「本当に。今日はどうされたのですか、リリアお嬢さま」
ふと、ばあやが窓の外に目を向ける。
「こんなにいい天気だけれど、このあと大雨にでもなるのかしらねぇ」
ひとり言なんだろうけど、わたしにまで聞こえている。
「わたくしどもは他にやることがございますので、そ…それでは失礼いたします…!」
そう言うと、使用人は逃げるように部屋から出ていってしまった。
ばあやもゆっくりとお辞儀をして去っていく。
あーあ、行っちゃった。
お見舞いのとき以外は病室にひとりきりだったから、せめて話し相手がほしかったのに。
わたしはティーカップを持つと、そっと口元へと持っていった。
「なにこの紅茶!おいしすぎる!!」
次にクッキーとチョコレートをひとつずつ摘む。
いつぶりかもわからないほどの甘いお菓子を摂取して、あまりのおいしさにわたしは悶絶していた。
――「マリアお嬢さまがお戻りになられました」
そのとき、部屋の外からかすかにそんな声が聞こえた。
マリアお嬢さまって…。
もしかして、このゲーム世界の主人公兼ヒロインの――。
…あのマリア!?


