感情が味で分かる令嬢は、偽りの愛を見抜きます~婚約者は腐った生ゴミ味、冷酷な第二王子は極上の味でした~【短編】
「無様だな」
「っ……!」
その時。
シャルロッテの頭上から、ポツリと低い声が落ちた。
一瞬、甘い飴が振ってきた気がして弾けるように顔を上げると、そこにはアルトゥール第二王子が立っていたのだ。
彼はエドゥアルトの腹違いの弟で、さらに兄とは同い年だった。
国王が気まぐれに手を出したメイドの子で、正妃の怒りを買い生まれた頃より凄まじい冷遇を受けていた。
幼い頃から暗殺未遂も多く、そのせいか本人もすっかり冷淡で周囲から恐れられる存在になっていた。
シャルロッテも彼とはほとんど面識がなかった。お妃教育などで王宮に赴いた際に、遠目で見かける程度だ。
彼女としては未来の義弟なのだからもっと親しくなりたかったが、王妃や第二王子本人によって徹底的に避けられていたのだった。
(わたくしは兄弟どちらからも嫌われてしまったわ……。この先やっていけるのかしら……)
アルトゥールの鋭い視線が彼女に注がれる。
幼い頃は天使のように可愛らしかった造形も、今では精悍な顔立ちになっていた。
彼の決して笑顔を見せず誰も寄せ付けないクールな姿が、密かに令嬢たちからの人気を集めていた。
「ご機嫌よう、第二王子殿下」
沈黙の圧に耐えきれず、シャルロッテはカーテシーをする。
アルトゥールは沈黙を貫き、彼女の様子を少しの間しげしげと見つめてから口を開いた。
「実に無様だ」
彼は不快そうなしかめっ面で一言だけ呟いて、静かに去って行っていく。
「えっ……?」
次の瞬間、シャルロッテは信じられないといった顔で大きく目を見張り身体を硬直させた。
(なに……この味……!?)
アルトゥールのたった一言だけの冷ややかな声音は、彼女がこれまで体験したことのない極上の味をもたらせたのだ。
それは滑らかな舌触りで、香ばしさが鼻孔をくすぐり、濃厚なチョコレートの味が口の中をこれでもかと言うくらいに撫で回していた。
「美味しい……美味しすぎますわぁっ!!」
シャルロッテの口腔内には、いつまでも甘美な味が残っていた。