感情が味で分かる令嬢は、偽りの愛を見抜きます~婚約者は腐った生ゴミ味、冷酷な第二王子は極上の味でした~【短編】
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エドゥアルトは頬を緩めて軽い足取りで取り巻きたちの元へ向かい、シャルロッテは一人とぼとぼと王宮の庭を歩いていた。
(男爵令嬢を迎え入れるつもりなら、早くわたくしを開放していただきたいですわ……)
深いため息が絶え間なく出てくる。
エドゥアルトは腐った生ゴミ以下を吐き出すほどにシャルロッテのことが嫌いなはずなのに、未だに手元に置いたままの理由がさっぱり分からなかった。
たしかに二人は政略結婚ではあるが、過去には他にも候補に上がった令嬢もいたのだ。
なにもこんなに過剰に嫌悪する令嬢より、少しは好意を持つ令嬢を選べばいいではないか。
「おい」
そのとき、棘のある声が頭上に落ちたと思ったら、甘くこうばしい味がふわりと漂った。
「アルトゥール殿下!」
我に返って正面に焦点を合わせると、アルトゥール第二王子がまたもや険しい視線を向けていた。
「ご、ご機嫌よう」
慌ててカーテシーをしようとしたが、彼は煩わしそうに手を挙げて制止させる。
「なぜ一人でここにいる? 兄上はどうした?」
「っ……!」
次の瞬間、またもや滑らかな甘味がシャルロッテの舌の上に広がり、大きく目を見開いた。
「聞いているのか?」
「ひゃ……ひゃいっ!」
剣呑な声音にシャルロッテはビクリと肩を竦ませる。硬質な声と同時に降り注ぐ甘美な味わいは、彼女の心をひどく揺さぶった。
(な……なんですの、この極上の味は……!? 美味しすぎますわぁっ!!)
これまでに味わったことのないほどの旨味に、シャルロッテの心は激しく高揚した。
それは王宮の料理人が提供する超一流の晩餐よりも絶品で、一口だけで天にも昇る心地になるのだ。
「お、おい! 大丈夫か?」
突如、プルプルと小刻みに身体を震わせながら俯いたシャルロッテに、アルトゥールは驚いて彼女の両肩を支えようとした。
だが間髪を容れずに彼女は彼の腕をがっしりと掴み、パッと勢いよく顔を上げる。
「おっ……」
シャルロッテはひどく物欲しそうな、それでいてはにかむような視線をアルトゥールに向ける。そこはかとなく色気の滲んだ表情に、思わず彼の脈が跳ねた。
「お……?」
彼はおそるおそる続きを尋ねる。
彼女は少しのあいだ躊躇する素振りを見せたが、欲望を抑えられずに口を開いた。
「おかわりを……くださいっ…………っつ!!」
「はぁっ!?」
普段の立派な侯爵令嬢にあるまじき意味不明な言動に、アルトゥールは目を白黒させた。
一拍置いてはっと我に返ったシャルロッテは、零れ落ちそうな涎を我慢して、表情を隠すように礼をした。
「しっ……失礼をばいたしましたわ。わたくし、第一王子殿下のもとへ戻ります」
「あ、あぁ……。お前、どこか体調でも――」
「はうわっ!」
アルトゥールが少しでも口を開く度に極上の美食の味わいがシャルロッテの舌に溶け込んで、彼女はもう頭がどうにかなりそうだった。
「ご機嫌ようっ!」
彼女は顔を真っ赤にさせて、生まれたての子鹿のような足取りで逃げるように去っていった。
「お、おい!」
アルトゥールが手を伸ばした時には、シャルロッテの姿はもうなかった。彼は不可解そうな顔で、彼女が去った道のりを見つめる。