感情が味で分かる令嬢は、偽りの愛を見抜きます~婚約者は腐った生ゴミ味、冷酷な第二王子は極上の味でした~【短編】
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しかし、シャルロッテの描いていた未来は、儚くも崩れ去ろうとしていた。
「和睦の祝杯……ですか?」
婚約者のもとへ戻った彼女は、開口一番そう言われ、やや赤みがかった琥珀色の液体入ったグラスをエドゥアルトに渡されたのだ。
「そうだよ。僕たち兄弟がいつまでも不仲だったら、政治の不穏に繋がるからね。王太子妃を娶る前に、兄弟の親密を貴族たちに示しておかなければ」
エドゥアルトはアピールするように笑顔で深く頷いてから、再び話を続ける。
「パートナーが王宮へ来る頃には、安心させておきたいからね」
あくまでも微笑みを崩さない婚約者だが、シャルロッテの舌はビリリと痺れて、背筋にぞっと寒気が走った。
(これは……!? 嘘をついている味だわっ……!!)
忘れもしない、幼い頃から何度も味わっている味覚だった。
エドゥアルトは、事あるごとに嘘をついていた。
勉強の進捗がシャルロッテより先をいっているだとか。さっきまでローゼ男爵令嬢と密会していたのに、学友たちと一緒だったとか。
そんなときに彼女の舌の上をピリピリと這うあの感覚が、今まさに口腔内で繰り広げられていたのだった。
自然と表情が固くなっていく。婚約者に興味のない彼は、何かを期待するように彼女を見つめていた。
(どれが嘘なの……?)
シャルロッテはエドゥアルトのさっきの言葉を振り返ってみる。
彼は『王太子妃』や『パートナー』などの一般的な固有名詞と言っており、決してシャルロッテの名を口にしなかった。
なので、未来の王太子妃を守りたい気持ちはあるのだろう。
ローゼという名の王太子妃を。
と、なると――……。
「承知いたしましたわ、エドゥアルト様」
シャルロッテは笑顔で頷きながら、ワイングラスを受け取った。
その瞬間、微かに波打った液体からは、甘ったるい果実ような香りが広がった。
「こちらは、貴腐ワインでしょうか?」
「あぁ。弟が生まれた年にできたものを用意させたんだ」
「それだけの年月が熟成されていると、かなり濃厚なお味が楽しめそうですわね」
貴腐ワインは甘みが強く、複雑な香りも特徴だ。シャンデリアに照らされた琥珀色は、宝石のように美しかった。
「あぁ。きっと弟も喜ぶだろう」
その時、エドゥアルトは口元に弧を描いてニタリと笑ってみせた。すると、シャルロッテの白い肌が粟立った。
同時に、またぞろ口の中にピリピリと電撃が走る。
(やっぱり、そうなのね……)
琥珀色の液体の中には、何かが入っている。
お妃教育で聞いたことがある。無色透明で、微かに匂いと味の漂う――王家秘伝の、何かが。