リーガル・ラブ〜イケメン弁護士はお堅い彼女のハートを盗みたい〜
カフェのオーダーを済ませてしばらくすると、以前と同じように西田がやって来た。
「戸倉さん、お疲れ様。ご注文のアイスコーヒーとクラブサンドです。お客様のところまで届けに行こうか?」
「いいえ、私が行くので大丈夫です」
些細なことかもしれないが、今誰がミーティングルームを使っているのかを知らせるのもよくないと優香は考えていた。
「そう? じゃあお願い」
「ありがとうございます。決済はアプリで済ませておきますね」
紙袋を受け取ると、カウンターの上に「席を外しております。御用の方は内線電話でお知らせください」と書かれたプレートを置いてから5階に向かう。
一番奥の部屋に行くとドアをノックして声をかけた。
「コンシェルジュの戸倉でございます。お食事をお持ちしました」
するとカチャッとドアが開いて壮志が顔を覗かせ、優香が差し出した紙袋を「ありがとう」と受け取る。
「いいえ。お手数ですがアプリで決済をお願いできますでしょうか?」
「ああ、そうか。ごめん、ちょっと待ってて」
そう言うと壮志は部屋の中に戻り、置いてあったノートパソコンに向かって英語で何やら話し始めた。
(あっ、オンラインミーティング中だったのね)
しまった、と優香は顔をしかめる。
配慮が足りなかったと思うが、ではどうすればよかったのかと考えていると、壮志が戻って来た。
「お待たせ。どうかした?」
「あの、お仕事のお邪魔をして申し訳ありませんでした。来る前にご連絡を差し上げるべきでした」
「いや、全然構わない。そんなことまで気にしなくていいよ。決済はどうすればいい?」
「あ、はい。わたくしのタブレットにオーダーの表示があります。こちらの内容をご確認いただき、お間違いなければ古賀様のスマートフォンを近づけていただけますか?」
「了解。アイスコーヒーとクラブハウスサンドイッチ……。ん? 急ぎのオーダーにしてくれたの?」
「はい。ですが追加料金などは発生しておりませんのでご安心ください」
壮志はふっと口元を緩めてから、ポケットから取り出したスマートフォンを近づける。
「画面の表示が変わりましたら決済方法を選んで決済をお願いいたします」
「わかった」
ピコンと音がして、優香が手にしていたタブレットに【決済が完了しました】と表示された。
「ありがとうございます、以上で終了です。お仕事中に大変失礼いたしました」
「こちらが頼んだのだから、君が謝る必要はない。……ちょっと心配になるな」
小さくつけ加えられた言葉に優香は首をひねる。
「心配、ですか?」
「いや、まあね。仕事がら外国人と法律のやり取りをするんだけど、向こうは『すみません』とこちらが言えば過失を認めたと捉えるんだ。悪くなくてもまず謝罪するのは日本人の美徳だけど、それが心配でね。例えば歩きスマホをしていた人が君にぶつかって来て、手にしたスマホを落としてしまったとする。君の性格だと『すみません』と言ってしまうだろう? すると相手は『じゃあ弁償してくれるんだな』と強気に出るんだ。そういうトラブルをたくさん見てきたから、君のことも少し心配になってしまった」
「そうなのですね」
「もちろんそれが君のよさでもある。だけど車の接触事故とか、大きな出来事の時は気をつけて」
「はい、ありがとうございます。あの……もしわたくしが何か法に触れていたら、すぐにおっしゃってくださいね」
すると今度は壮志が首をひねった。
「君が法に触れるなんて想像つかないけど?」
「いいえ、既にいくつか心当たりがありまして」
「どんなこと?」
「それは、その……。本当は存在しないにもかかわらず、規則があると古賀様に嘘の発言をしたり、賄賂と間違われかねないどら焼きをご婦人から受け取ったり……」
一瞬ポカンとしてから、壮志は声を上げて笑い出す。
「ははっ! それはすごい罪だな。そんなこと言ってたら世の中罪人だらけで、弁護士は手に負えない。それに俺だってたくさん罪を犯したことになる」
そう言ってから、壮志は身を屈めて優香の顔を覗き込んだ。
「安心して。君は誰よりも心がきれいだし、思いやりにあふれた人だ。罪人どころか、とても素敵な女性だよ」
えっ……と優香は言葉に詰まる。
「ありがとう、助かった。それじゃあ」
「あ、はい。失礼いたします」
我に返って慌ててお辞儀をし、部屋をあとにした。
「戸倉さん、お疲れ様。ご注文のアイスコーヒーとクラブサンドです。お客様のところまで届けに行こうか?」
「いいえ、私が行くので大丈夫です」
些細なことかもしれないが、今誰がミーティングルームを使っているのかを知らせるのもよくないと優香は考えていた。
「そう? じゃあお願い」
「ありがとうございます。決済はアプリで済ませておきますね」
紙袋を受け取ると、カウンターの上に「席を外しております。御用の方は内線電話でお知らせください」と書かれたプレートを置いてから5階に向かう。
一番奥の部屋に行くとドアをノックして声をかけた。
「コンシェルジュの戸倉でございます。お食事をお持ちしました」
するとカチャッとドアが開いて壮志が顔を覗かせ、優香が差し出した紙袋を「ありがとう」と受け取る。
「いいえ。お手数ですがアプリで決済をお願いできますでしょうか?」
「ああ、そうか。ごめん、ちょっと待ってて」
そう言うと壮志は部屋の中に戻り、置いてあったノートパソコンに向かって英語で何やら話し始めた。
(あっ、オンラインミーティング中だったのね)
しまった、と優香は顔をしかめる。
配慮が足りなかったと思うが、ではどうすればよかったのかと考えていると、壮志が戻って来た。
「お待たせ。どうかした?」
「あの、お仕事のお邪魔をして申し訳ありませんでした。来る前にご連絡を差し上げるべきでした」
「いや、全然構わない。そんなことまで気にしなくていいよ。決済はどうすればいい?」
「あ、はい。わたくしのタブレットにオーダーの表示があります。こちらの内容をご確認いただき、お間違いなければ古賀様のスマートフォンを近づけていただけますか?」
「了解。アイスコーヒーとクラブハウスサンドイッチ……。ん? 急ぎのオーダーにしてくれたの?」
「はい。ですが追加料金などは発生しておりませんのでご安心ください」
壮志はふっと口元を緩めてから、ポケットから取り出したスマートフォンを近づける。
「画面の表示が変わりましたら決済方法を選んで決済をお願いいたします」
「わかった」
ピコンと音がして、優香が手にしていたタブレットに【決済が完了しました】と表示された。
「ありがとうございます、以上で終了です。お仕事中に大変失礼いたしました」
「こちらが頼んだのだから、君が謝る必要はない。……ちょっと心配になるな」
小さくつけ加えられた言葉に優香は首をひねる。
「心配、ですか?」
「いや、まあね。仕事がら外国人と法律のやり取りをするんだけど、向こうは『すみません』とこちらが言えば過失を認めたと捉えるんだ。悪くなくてもまず謝罪するのは日本人の美徳だけど、それが心配でね。例えば歩きスマホをしていた人が君にぶつかって来て、手にしたスマホを落としてしまったとする。君の性格だと『すみません』と言ってしまうだろう? すると相手は『じゃあ弁償してくれるんだな』と強気に出るんだ。そういうトラブルをたくさん見てきたから、君のことも少し心配になってしまった」
「そうなのですね」
「もちろんそれが君のよさでもある。だけど車の接触事故とか、大きな出来事の時は気をつけて」
「はい、ありがとうございます。あの……もしわたくしが何か法に触れていたら、すぐにおっしゃってくださいね」
すると今度は壮志が首をひねった。
「君が法に触れるなんて想像つかないけど?」
「いいえ、既にいくつか心当たりがありまして」
「どんなこと?」
「それは、その……。本当は存在しないにもかかわらず、規則があると古賀様に嘘の発言をしたり、賄賂と間違われかねないどら焼きをご婦人から受け取ったり……」
一瞬ポカンとしてから、壮志は声を上げて笑い出す。
「ははっ! それはすごい罪だな。そんなこと言ってたら世の中罪人だらけで、弁護士は手に負えない。それに俺だってたくさん罪を犯したことになる」
そう言ってから、壮志は身を屈めて優香の顔を覗き込んだ。
「安心して。君は誰よりも心がきれいだし、思いやりにあふれた人だ。罪人どころか、とても素敵な女性だよ」
えっ……と優香は言葉に詰まる。
「ありがとう、助かった。それじゃあ」
「あ、はい。失礼いたします」
我に返って慌ててお辞儀をし、部屋をあとにした。