リーガル・ラブ〜イケメン弁護士はお堅い彼女のハートを盗みたい〜
二人の距離感
(また余計なことを言ってしまった……)
オンラインミーティングを終え、クラブハウスサンドを食べながら壮志は反省する。
先ほどの優香とのやりとりを思い出し、ため息をついた。
(口うるさいオヤジが性懲りもなく絡んできたと思われただろうな。彼女ならそんな口調ではないか。これだから話の長い年長者は困るのよ、とか? それに弁護士だからと怖がられている気もする。いや、怖がらせたのは俺か)
距離を置こうと決めてなるべくメインロビーを避けていたというのに、偶然会ったらつい長話をしてしまった。
(気をつけなければ。これからは挨拶だけにするぞ)
再度そう心に決めた。
ところがその数日後。
海外との時差の関係で仕事が深夜に及び、1時過ぎにタクシーで帰宅した時のことだった。
(はあ、さすがに眠いな)
サウスタワーのエントランスに入り、エレベーターのボタンを押す。
ポンと音がして扉が開き、スッと乗り込んだところで中にいた人とぶつかりそうになって後ずさった。
「失礼!」
てっきり誰も乗っていないと思っていたが、相手が優香だとわかって更に驚いた。
「戸倉さん!?」
「あっ、古賀様。お帰りなさいませ」
コンシェルジュの制服をきちんと着こなし、髪型もきれいに整ったままの優香がにこやかに挨拶する。
落ち着いた雰囲気もいつもと変わらず、思わず壮志は腕時計で時間を確かめた。
「もう夜中の1時を過ぎているのに、どうして君がまだ?」
「今日は夜勤の日ですので。バーのお食事をお部屋まで届けたところです」
「女性スタッフが夜勤を? 今までは男性スタッフだけだったよね?」
「はい。シフトを見直して女性コンシェルジュも時々夜勤に入ることになりました」
そこまで言うと優香はハッと表情を変える。
「あの、これって労働基準法違反になりますか?」
「え? いや、そんなことはない」
「そうですか、よかった」
微笑んでから、優香は気遣うように言葉を続けた。
「古賀様もお仕事遅くまでお疲れ様でした。何かお食事をお持ちしましょうか? バーには隠れメニューとして、お茶漬けや雑炊もありますよ」
「そうなのか? うまそうだな」
「はい。アプリでオーダーを済ませていただければ、お部屋までお届けに上がります」
「いや、気分転換も兼ねてバーで食べたい」
「かしこまりました」
その流れで二人肩を並べて歩き出す。
外に出てガーデンを横切っていると、優香が小さく「あ……」と呟いた。
「どうかした?」
「はい、あの。あそこに紫陽花が咲いています」
「本当だ、きれいだな」
「ええ」
月明かりに照らされ、緑が生い茂る中にひと株の紫陽花が咲き始めていた。
「そうか、もうそんな季節なんだな」
「そうですね。暑い日が続いていますので、熱中症にもお気をつけくださいね」
「ありがとう。君も」
「はい。コンシェルジュの制服も明日から夏服に衣替えするので、涼しくなります」
「へえ、そうなのか」
耳を澄ませばかすかに虫の音が聞こえ、自然と心が落ち着く。
二人でゆっくり歩きながら、静かに会話を続けた。
「夏は楽しいイベントをたくさん企画しているんです。花火大会がある日は、それぞれのタワーのルーフトップテラスに観覧席を設けてビールや焼きそばを振る舞ったり」
「それはいいな」
「このガーデンで夏祭りもするんですよ。屋台をたくさん並べて、コンシェルジュも浴衣を着てお店番をします」
そう言って優香はふふっと微笑む。
可憐なその横顔に、壮志は思わず目を奪われた。
「浴衣、せっかくだから新調しようと思ってるんです。どんな柄がいいかなぁ」
視線を上げて考え込むように少し首をかしげる仕草が可愛らしい。
「古賀様は夏休みに何か楽しいご予定はありますか?」
「ん? いや、まったくないな」
「お仕事がお忙しくて?」
「休みは取れるけど、何も考えてなかった。ゴールデンウィークみたいにダラダラして終わりそうだな」
「それならぜひ、マンションの夏祭りにいらしてくださいね。お待ちしています」
にっこり笑いかけられて、壮志は思わず頷いていた。
オンラインミーティングを終え、クラブハウスサンドを食べながら壮志は反省する。
先ほどの優香とのやりとりを思い出し、ため息をついた。
(口うるさいオヤジが性懲りもなく絡んできたと思われただろうな。彼女ならそんな口調ではないか。これだから話の長い年長者は困るのよ、とか? それに弁護士だからと怖がられている気もする。いや、怖がらせたのは俺か)
距離を置こうと決めてなるべくメインロビーを避けていたというのに、偶然会ったらつい長話をしてしまった。
(気をつけなければ。これからは挨拶だけにするぞ)
再度そう心に決めた。
ところがその数日後。
海外との時差の関係で仕事が深夜に及び、1時過ぎにタクシーで帰宅した時のことだった。
(はあ、さすがに眠いな)
サウスタワーのエントランスに入り、エレベーターのボタンを押す。
ポンと音がして扉が開き、スッと乗り込んだところで中にいた人とぶつかりそうになって後ずさった。
「失礼!」
てっきり誰も乗っていないと思っていたが、相手が優香だとわかって更に驚いた。
「戸倉さん!?」
「あっ、古賀様。お帰りなさいませ」
コンシェルジュの制服をきちんと着こなし、髪型もきれいに整ったままの優香がにこやかに挨拶する。
落ち着いた雰囲気もいつもと変わらず、思わず壮志は腕時計で時間を確かめた。
「もう夜中の1時を過ぎているのに、どうして君がまだ?」
「今日は夜勤の日ですので。バーのお食事をお部屋まで届けたところです」
「女性スタッフが夜勤を? 今までは男性スタッフだけだったよね?」
「はい。シフトを見直して女性コンシェルジュも時々夜勤に入ることになりました」
そこまで言うと優香はハッと表情を変える。
「あの、これって労働基準法違反になりますか?」
「え? いや、そんなことはない」
「そうですか、よかった」
微笑んでから、優香は気遣うように言葉を続けた。
「古賀様もお仕事遅くまでお疲れ様でした。何かお食事をお持ちしましょうか? バーには隠れメニューとして、お茶漬けや雑炊もありますよ」
「そうなのか? うまそうだな」
「はい。アプリでオーダーを済ませていただければ、お部屋までお届けに上がります」
「いや、気分転換も兼ねてバーで食べたい」
「かしこまりました」
その流れで二人肩を並べて歩き出す。
外に出てガーデンを横切っていると、優香が小さく「あ……」と呟いた。
「どうかした?」
「はい、あの。あそこに紫陽花が咲いています」
「本当だ、きれいだな」
「ええ」
月明かりに照らされ、緑が生い茂る中にひと株の紫陽花が咲き始めていた。
「そうか、もうそんな季節なんだな」
「そうですね。暑い日が続いていますので、熱中症にもお気をつけくださいね」
「ありがとう。君も」
「はい。コンシェルジュの制服も明日から夏服に衣替えするので、涼しくなります」
「へえ、そうなのか」
耳を澄ませばかすかに虫の音が聞こえ、自然と心が落ち着く。
二人でゆっくり歩きながら、静かに会話を続けた。
「夏は楽しいイベントをたくさん企画しているんです。花火大会がある日は、それぞれのタワーのルーフトップテラスに観覧席を設けてビールや焼きそばを振る舞ったり」
「それはいいな」
「このガーデンで夏祭りもするんですよ。屋台をたくさん並べて、コンシェルジュも浴衣を着てお店番をします」
そう言って優香はふふっと微笑む。
可憐なその横顔に、壮志は思わず目を奪われた。
「浴衣、せっかくだから新調しようと思ってるんです。どんな柄がいいかなぁ」
視線を上げて考え込むように少し首をかしげる仕草が可愛らしい。
「古賀様は夏休みに何か楽しいご予定はありますか?」
「ん? いや、まったくないな」
「お仕事がお忙しくて?」
「休みは取れるけど、何も考えてなかった。ゴールデンウィークみたいにダラダラして終わりそうだな」
「それならぜひ、マンションの夏祭りにいらしてくださいね。お待ちしています」
にっこり笑いかけられて、壮志は思わず頷いていた。