リーガル・ラブ〜イケメン弁護士はお堅い彼女のハートを盗みたい〜
「それではわたくしはここで。お食事楽しんで来てくださいね」

コミュニティ棟のエントランスの前で、優香はお辞儀をする。
そのまま立ち去ろうとするのを「ちょっと待って」と呼び止めた。

「メインロビーまで送る。こんな深夜に一人では危ない」
「いえ、そんな。すぐそこですから」
「いいから、行こう」

有無を言わさず歩き出し、ほのかな明かりがともるロビーに送り届けた。

「ここに一人でいて、本当に大丈夫か?」
「もちろんです。マンションの敷地内ですし」
「防犯カメラもある?」
「はい。警備センターに24時間監視してもらっています」
「そうか。でもくれぐれも気をつけて」
「ありがとうございます」

後ろ髪を引かれる思いでロビーをあとにし、バーに向かう。

照明がグッと絞られた店内は、平日の深夜とあってか他に男性客が一人いるだけだった。

「いらっしゃいませ」

マスターに声をかけられて、壮志はカウンターの席に座る。

「何になさいますか?」
「実は裏メニューがあると聞いて……」

半信半疑で切り出すと、マスターはパッと笑顔になった。

「ございますよ。お茶漬けと雑炊、煮込みうどんもありますが、いかがでしょう?」
「ではお茶漬けを」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

マスターはグラスに注いだミネラルウォーターを壮志の前に置いてから、裏手に姿を消した。

(およそお茶漬けが出て来そうにない雰囲気だな)

落ち着いた店内はゆっくりお酒を楽しむのにふさわしく、今からでもウイスキーを頼みたくなる。

だがほどなくしてマスターが「お待たせいたしました」と運んで来たお盆を見て、一気に食欲が湧いた。

焼き鮭や佃煮、梅肉や粒あられ、小口ねぎや刻み海苔などが小さな和食器に所狭しと盛りつけてある。

「すごいな。想像より遥かに本格的だ」
「ありがとうございます。こちらのおひつからご飯をお椀によそって、お好きな具材でお召し上がりください。急須の出汁も、お好みでどうぞ」
「ありがとう」

早速小さなしゃもじで白米をよそい、ほぐした焼き鮭を混ぜてから食べる。

「うん、うまい」

出汁を注いでから食べるとまた違った美味しさで、一気に平らげた。

色々な具材を載せるのも楽しく、おひつからおかわりをよそっては夢中で口に運ぶ。

「はあ、五臓六腑に染みわたる」

思わず呟くと、マスターが笑った。

「それはよかったです。戸倉さんにお会いになったんですね?」

急に優香の話題になり、壮志はドキッとする。

「ええ、そうですが……」
「実はこの裏メニュー、戸倉さんの発案なのです。このマンションは深夜に帰宅される方も多いのですが、カフェやスーパーは既に閉まっているので毎晩コンビニ弁当で済ませているという住人の方の言葉を聞いて、戸倉さんが私に提案してくれました。簡単なものでもいいので、何か手作りの温かい食事は提供できませんかと」
「そうだったんですね」
「はい。ここの食事メニューはお酒に合うようなものばかりなので、それとは別に、お茶漬けなどが喜ばれるのではないかと。ですが、バーの雰囲気を壊す訳にもいきません。そこで裏メニューということでご提供することになったのです。とは言え、じわじわ広まってきていますので、いずれは表のメニューになってしまうと思いますが」

苦笑いするマスターに、壮志も頷く。

「そうですね。私もまた食べに来たいです」
「いつでもお待ちしております。お部屋にお届けすることもできますので」
「それはいいな、次回はぜひそうさせてもらいます。本当に美味しかった。ごちそうさまでした」

身体だけでなく心まで満たされた気がするのは、優香の心遣いのおかげだろう。

そう思いながら、壮志は幸せな気分でバーをあとにした。
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