リーガル・ラブ〜イケメン弁護士はお堅い彼女のハートを盗みたい〜
「古賀様、本当にありがとうございました」

メインロビーに着くと、優香が改まって頭を下げる。

「いや。勤務は0時半までなんだよね?」
「はい、そうです」
「あと20分か。がんばって」

腕時計を確かめてからそう声をかけると、優香は「ありがとうございます。おやすみなさい」と笑顔で答えた。

壮志は踵を返すとその足でバーに向かう。

「いらっしゃいませ。本日もお越しいただき、ありがとうございます」

にこやかに笑みを浮かべるマスターに、壮志は雑炊を二人分テイクアウトしたいと伝えた。

「かしこまりました。すぐにご用意しますね」
「お願いします。別々に包んでもらえますか?」
「承知しました」

出来上がるのを待つ間、スマートフォンを操作して6階のゲストルームをひと部屋押さえる。

「お待たせいたしました。カニとホタテの雑炊お二人分です」

マスターから紙袋を2つ受け取り、スマートフォンで支払いを済ませると、すぐにまたメインロビーへと戻る。

自動ドアから中の様子をうかがうと、ちょうど優香が夜勤の男性スタッフに挨拶してドアへと歩き始めたところだった。

改めて見ると、夏の白い制服が爽やかでよく似合っている。

優香はスカーフを外してバックに入れ、代わりに取り出したカーディガンを羽織ってドアから出て来た。

「戸倉さん」

声をかけると、優香はビクッと身体をこわばらせる。

「ごめん、怖がらせたな」
「古賀様! まだいらしたんですか?」
「ああ。君に用事があってね」
「どうされました?」
「ちょっとついて来てもらえる?」
「え? はい」

かなり強引だと自覚しているが、壮志はとにかく優香を連れてコミュニティ棟の6階に向かった。

「あの、古賀様?」

訝しげな優香の声を背中で聞きつつ、壮志は先ほど押さえたゲストルームの前まで来る。

「教えてほしいんだけど、この部屋を俺が予約して誰かに使ってもらいたい場合、デジタルキーを発行できる?」

はい、と優香は頷いた。

「アプリで予約画面を表示し、デジタルキーを発行する、というボタンをタップするとQRコードが発行されます。それをお相手の方にメールやメッセージアプリで送れば大丈夫です」
「試してみてもいいかな? 君のメールアドレスを教えてもらってもいい?」
「では、仕事で使っているアドレスを」

優香が口にするアドレスを入力してQRコードを送信する。

「どう? 届いた?」
「はい、届きました」
「実際に部屋は開けられる?」
「やってみますね」

ドアの横に取り付けられた読み取り機に優香がコードをかざすと、ピッと音がしてロックが解除された。

「開きました」
「よかった。じゃあ今夜は君がこの部屋を使って」

は?と、優香は声を上ずらせる。

「あの、どういうことですか?」
「ん? もったいないからさ。操作方法を確認するために予約したけど、せっかくだから使った方がいいでしょ」
「それなら、古賀様がご利用ください」
「俺は自分の部屋があるからいい。君はこのゲストルームを使ったことがある?」
「いえ、ないです」
「それなら一度泊まってみるのも、コンシェルジュの仕事の参考になっていいと思う。それからこれ、はい」

紙袋を差し出すと、優香は首をひねりながら受け取った。

「何でしょうか?」
「バーの裏メニューの雑炊。間違えて二人分頼んでしまった。もったいないから食べて。それじゃあ」

え、あの!と言う優香に背を向け、壮志は足早に立ち去った。
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