リーガル・ラブ〜イケメン弁護士はお堅い彼女のハートを盗みたい〜
「すごいな、こんなに色々充実してるんだ」
コミュニティ棟に案内すると、壮志はしげしげと辺りを見渡して感心する。
優香は心の中で首をひねった。
(古賀様は何を決め手にこのマンションを購入されたのかしら。共用施設も今初めて把握されたみたいだし。もしかして単に立地がいいだけで、こんな高価なマンションを?)
不思議に思うが、もちろんそれを尋ねる訳にはいかない。
あくまでにこやかに、それぞれの利用方法を説明して回った。
「では最後に、アプリのインストールとデジタルキーについてご説明しますね。ロビーラウンジに場所を移してもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わないけど、戸倉さんさえよければカフェでランチしながらでもいいかな?」
「申し訳ありません。コンシェルジュの規則でそのようなことはできかねまして……」
そうなの?と、壮志は驚いたように言う。
実際にはそんな規則はないのだが、優香は過去の教訓から、コンシェルジュとしてふさわしくない行いだと判断した時はいつもそう断わってきた。
住人と、しかもコンシェルジュの制服姿で一緒に食事をするなど、どんなふうに見られてどんな噂になるか、想像しただけで恐ろしい。
「古賀様はこのままカフェにどうぞ。お食事を済まされたあとに、改めてまいりますね」
「いや、それなら食事はあとにする。ロビーラウンジに行こうか」
歩き出した壮志に続いてロビーに下りると、二人でテーブルを挟んでソファに座る。
優香がマンションのパンフレット一式を見せながら説明し、壮志は無事にスマートフォンに入居者アプリをインストールした。
「これでスマートフォンのデジタルキー化も完了しております。その他、ハウスキーピングやネットスーパーなどの利用方法はこちらのパンフレットをご参照ください。ご不明な点はいつでもお気軽にコンシェルジュにお尋ねくださいね。24時間対応しております」
「ありがとう。本当に心強いよ」
いいえ、と微笑んでから、優香はふと思い出す。
「古賀様、出過ぎたことを申し上げるようで恐縮なのですが……」
「ん? いや、とんでもない。何?」
「はい。引越し作業に立ち会った時に思ったのですが、カーテンはまだ手配されていらっしゃらないのですか?」
「カーテン……カーテン!?」
壮志はハッとしたように目を見開いた。
「忘れてた! そうか、夜になったら外から丸見えだな」
「ええ。暗くなる前に用意された方がよろしいかと」
「確かにそうだ。ありがとう」
そう言ってから、困ったように眉根を寄せる。
「ごめん。カーテンって、どうやって買うんだっけ? 前に住んでた部屋でも散々サイズを間違えて、何枚も買い直した記憶があるんだ」
「そうなのですね、それは大変です。今、古賀様のお部屋の詳しい間取り図を確認いたします」
優香はコンシェルジュが持ち歩いているタブレットを操作し、情報を呼び出した。
「こちらに窓のサイズが記載されています。天井にカーテンボックスが埋め込んでありますので、そこから床までの距離のカーテンにするか、床から少し浮かせた方がいいのか、などのお好みはありますか? ブラインドにするというのも1つの方法かと」
そこまで言って顔を上げると、壮志は困り果てたようにじっと優香を見つめてきた。
「戸倉さん」
「はい」
「ごめん、選んでもらってもいいかな?」
「そんな、わたくしの一存では……。それならご一緒に選びましょうか」
「頼む、お願いするよ」
「かしこまりました」
優香はネットショップのページを開いて見せる。
「カーテンはこのように、素材や色、柄などでお部屋の印象がガラリと変わります。冬は断熱、夏は遮光などの目的で替えるのもよろしいかと。古賀様のお部屋のリビングは2面採光ですので、ブラインドよりはカーテンにしてアート感覚で選ぶのはいかがでしょう?」
「うん、いいな。カーテンにするよ。色んな種類のものを買い足せばいい気分転換になりそうだ」
「ええ。このように敢えて色違いのカーテンを2重にし、タッセルで結んでも素敵かと」
「なるほど、こだわれば楽しそうだな。ハマりそうだよ」
壮志は身を乗り出して優香のタブレットを覗き込み、思案しながらリビングのカーテンを選んでいく。
寝室にもカーテンを、書斎にはブラインドを選んでオーダーを済ませた。
「本日の17時までには届くそうです」
「ありがとう! 何から何まで本当に助かったよ、戸倉さん。また改めてお礼をさせてほしい」
「いえ、お気持ちだけで」
「それなら今カフェで何かテイクアウトしてくる。せめてそれくらいは受け取って」
「本当にお気遣いなく。何度も申し上げますが規則で受け取れませんし、コンシェルジュとして当然のことをしたまでですので」
受け取ってはいけない規則もないが、ここは頑なに押し通す。
だが相手も引き下がらない。
「8才も年下の子にこんなに世話になって、何もしないなんてあり得ない」
「仕事の場に年齢は関係ありません」
「じゃあバレないようにこっそり渡すから」
「バレなければいいというようなことでもございません」
「真面目だな、Z世代なのに」
「Z世代が不真面目だと!?」
「いや、若いからもっと軽いノリなのかと思って。なかなか強情だな」
「古賀様もではございませんか」
たたみ掛けるようなやり取りのあと、壮志は背もたれに身を預けて息をついた。
「わかったよ、今日のところは諦める。けど覚えておくからね」
「望むところでございます」
一歩も譲らないとばかりに顔を見合わせてから、ふっと同時に笑みをもらした。
「なんか変じゃない? このやり取り」
「確かに。失礼いたしました」
「いや、俺の方こそ大人気なかった。今日は本当にありがとう、戸倉さん。これからもよろしく」
「はい、いつでもお声かけください」
最後は笑い合って話を終えた。
コミュニティ棟に案内すると、壮志はしげしげと辺りを見渡して感心する。
優香は心の中で首をひねった。
(古賀様は何を決め手にこのマンションを購入されたのかしら。共用施設も今初めて把握されたみたいだし。もしかして単に立地がいいだけで、こんな高価なマンションを?)
不思議に思うが、もちろんそれを尋ねる訳にはいかない。
あくまでにこやかに、それぞれの利用方法を説明して回った。
「では最後に、アプリのインストールとデジタルキーについてご説明しますね。ロビーラウンジに場所を移してもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わないけど、戸倉さんさえよければカフェでランチしながらでもいいかな?」
「申し訳ありません。コンシェルジュの規則でそのようなことはできかねまして……」
そうなの?と、壮志は驚いたように言う。
実際にはそんな規則はないのだが、優香は過去の教訓から、コンシェルジュとしてふさわしくない行いだと判断した時はいつもそう断わってきた。
住人と、しかもコンシェルジュの制服姿で一緒に食事をするなど、どんなふうに見られてどんな噂になるか、想像しただけで恐ろしい。
「古賀様はこのままカフェにどうぞ。お食事を済まされたあとに、改めてまいりますね」
「いや、それなら食事はあとにする。ロビーラウンジに行こうか」
歩き出した壮志に続いてロビーに下りると、二人でテーブルを挟んでソファに座る。
優香がマンションのパンフレット一式を見せながら説明し、壮志は無事にスマートフォンに入居者アプリをインストールした。
「これでスマートフォンのデジタルキー化も完了しております。その他、ハウスキーピングやネットスーパーなどの利用方法はこちらのパンフレットをご参照ください。ご不明な点はいつでもお気軽にコンシェルジュにお尋ねくださいね。24時間対応しております」
「ありがとう。本当に心強いよ」
いいえ、と微笑んでから、優香はふと思い出す。
「古賀様、出過ぎたことを申し上げるようで恐縮なのですが……」
「ん? いや、とんでもない。何?」
「はい。引越し作業に立ち会った時に思ったのですが、カーテンはまだ手配されていらっしゃらないのですか?」
「カーテン……カーテン!?」
壮志はハッとしたように目を見開いた。
「忘れてた! そうか、夜になったら外から丸見えだな」
「ええ。暗くなる前に用意された方がよろしいかと」
「確かにそうだ。ありがとう」
そう言ってから、困ったように眉根を寄せる。
「ごめん。カーテンって、どうやって買うんだっけ? 前に住んでた部屋でも散々サイズを間違えて、何枚も買い直した記憶があるんだ」
「そうなのですね、それは大変です。今、古賀様のお部屋の詳しい間取り図を確認いたします」
優香はコンシェルジュが持ち歩いているタブレットを操作し、情報を呼び出した。
「こちらに窓のサイズが記載されています。天井にカーテンボックスが埋め込んでありますので、そこから床までの距離のカーテンにするか、床から少し浮かせた方がいいのか、などのお好みはありますか? ブラインドにするというのも1つの方法かと」
そこまで言って顔を上げると、壮志は困り果てたようにじっと優香を見つめてきた。
「戸倉さん」
「はい」
「ごめん、選んでもらってもいいかな?」
「そんな、わたくしの一存では……。それならご一緒に選びましょうか」
「頼む、お願いするよ」
「かしこまりました」
優香はネットショップのページを開いて見せる。
「カーテンはこのように、素材や色、柄などでお部屋の印象がガラリと変わります。冬は断熱、夏は遮光などの目的で替えるのもよろしいかと。古賀様のお部屋のリビングは2面採光ですので、ブラインドよりはカーテンにしてアート感覚で選ぶのはいかがでしょう?」
「うん、いいな。カーテンにするよ。色んな種類のものを買い足せばいい気分転換になりそうだ」
「ええ。このように敢えて色違いのカーテンを2重にし、タッセルで結んでも素敵かと」
「なるほど、こだわれば楽しそうだな。ハマりそうだよ」
壮志は身を乗り出して優香のタブレットを覗き込み、思案しながらリビングのカーテンを選んでいく。
寝室にもカーテンを、書斎にはブラインドを選んでオーダーを済ませた。
「本日の17時までには届くそうです」
「ありがとう! 何から何まで本当に助かったよ、戸倉さん。また改めてお礼をさせてほしい」
「いえ、お気持ちだけで」
「それなら今カフェで何かテイクアウトしてくる。せめてそれくらいは受け取って」
「本当にお気遣いなく。何度も申し上げますが規則で受け取れませんし、コンシェルジュとして当然のことをしたまでですので」
受け取ってはいけない規則もないが、ここは頑なに押し通す。
だが相手も引き下がらない。
「8才も年下の子にこんなに世話になって、何もしないなんてあり得ない」
「仕事の場に年齢は関係ありません」
「じゃあバレないようにこっそり渡すから」
「バレなければいいというようなことでもございません」
「真面目だな、Z世代なのに」
「Z世代が不真面目だと!?」
「いや、若いからもっと軽いノリなのかと思って。なかなか強情だな」
「古賀様もではございませんか」
たたみ掛けるようなやり取りのあと、壮志は背もたれに身を預けて息をついた。
「わかったよ、今日のところは諦める。けど覚えておくからね」
「望むところでございます」
一歩も譲らないとばかりに顔を見合わせてから、ふっと同時に笑みをもらした。
「なんか変じゃない? このやり取り」
「確かに。失礼いたしました」
「いや、俺の方こそ大人気なかった。今日は本当にありがとう、戸倉さん。これからもよろしく」
「はい、いつでもお声かけください」
最後は笑い合って話を終えた。