わすれもの

 大人から見れば、小学三年生なんか、子供どころか赤ちゃんだ。
 だから、あの子たちを「かわいこちゃんたち」、「ベビー」と呼んでいる。
 給食を配る時は「ひな鳥ちゃん」だ。
 「先生、ひどい!」って言うけれど、ちょうどよいだろう。
 ちょっと賢い子が「何歳まで赤ちゃんなんですか?」って聞いてきたけど、「大学生までは赤ちゃんだろ」って返した。

 中学生なんて、義務教育の枠組みからすれば、一つ上の先輩が大人に見えて、二つ上の先輩はずっと大人に見えてしまう。
 ましてや、大学生なんて、ずっとずっと大人。
 僕は、大人とのやり取りに慣れているつもりだけれど。
 それでも緊張していた。

 彼女は手足がすらりとしていた。
 クールな感じなのに、いたずらっ子みたいに明るい。
 だけど下品じゃなくて、おしゃれで落ち着いていて。
 空気は柔らかいけど、近づきがたかった。
 額を見せるセンターパートの髪形がそう思わせていたのだろうか。
 さらさらのストレート。
 今の私だったら、かわいい女の子だなと言える。
 でも。
 彼女に対して、今の私が会いに行っても、頭は上がらないだろう。
 確実に、そんな気がする。

 彼女と会って、喫茶店へ行ったんだっけ。
「じゃ、どこか入ろうか」
 って言って、僕はついて行くしかできなかった。
 僕より背が高くて、黒い髪がさらりと揺れる後姿は、なんとなく、だけどはっきりと今でも覚えている。
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