まだ青い彼
「会社出たって言うから迎えに来た」

 広睦くんの視線が隣の橘さんに移り、ぺこりと会釈をする。橘さんは察したようでふんと頷くとにこりと笑った。

「じゃあ、俺はここで。あー、そうだ東谷。お前いっそがしいし、空くの待ってても埒が明かないから、来週どっか空けて。ちょっと話したいことある」
「あ、はい。わかりました」

 うん、と穏やかに微笑むとその笑顔のままスッと広睦くんに視線を走らせ橘さんは私たちと離れて行った。

「……橘さん、だね」

 まだ橘さんの背中を目で追っていた私はハッとする。

「ああ、うん。よく覚えてるね、名前」
「そりゃね、好きだった人、だろ」
「好きって言うか……」

 憧れのような、そんな感情だった気がするな。社会人になりたての右も左もわからない時にずっと寄り添ってくれた人は頼もしく見えるものだ。あの頃からかな、恋愛における価値観が学生の頃からガラリと変わる。先輩は随分と素敵に見えた。

「何でいんの。こっちの人じゃないんだろ」
「あ、そうそう。実はね……すごいんだよ、あの人。会社の大きなプロジェクトリーダーに選ばれてこっちに来てるの。わざわざ呼ばれるくらいすごい人なんだよ。もしかして私がリーダーに選ばれたりしてってちょっと期待したんだけどね、まだまだだなぁ」
「そっか、すごいね。わかんないけどすごい人なんだろうな。やだなぁ」
「んふ」

 気持ちのまま顔と口に出されたことで吹き出してしまった。

「ちぇ、なんだよ。そりゃやだろ。自分の彼女が昔好きだった男と一緒に働いてんの。しかも、現在進行形で尊敬できる能力がある。脅威だけど? 」
「ふふ、既婚者だよ」
「逆に言うと、そこに頼るしかないってことだ。何もできず倫理観に頼るしかないってこと」
 じと目が可愛くてまた吹き出してしまいそうになった。
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