まだ青い彼
 そこからの橘さんは機嫌がよく楽しそうだった。
 最も、橘さんの機嫌が悪い時なんてないけど、少しかっこいい橘さんから可愛い所もある橘さんという広がりを見せた。
 プライベートではもっといろんな顔があるのだろうか……。帰る頃には私も声をあげて笑ったせいか心が軽くなっていた。

 帰り道、はぁ、と空に向かって息を吐く。
 『俺と、付き合わないか』そう言った橘さんを思い出すとドキリと心臓が一度音を立てた。知らない、男の顔だった――。

 ふとスマホが震え、ビクリとしてしまう。
 あ、着信――。え、橘さんだ。

「あ、はい。どうし――……」
『何か俺! 東谷けしかけるみたいなこと言っちゃったなと思って。違うから、俺、諦めてないから。選択肢にちゃんと加えといてくれよ。――東谷とちゃんと付き合いたいと思ってる。俺が東谷を好きだってこと。わかっておいて」
「はい、あの、こちらこそありがとうございました」
「じゃ、付き合わせて悪かったな。また明日」
 
 緊張して上手く言葉が出てこないまま電話は切れた。は、と緊張を解く。
 
 橘さん。私に気持ちを伝えるために呼び出してくれたのに。今日は話を聞いてくれて、励ましてくれた。
 私の恋愛を(たしな)める(てい)で相手を下げて別れる方向へ差し向けることだって出来たのに。尊敬する先輩からの助言だと私も従ったと思う。それなのに……。

「はは、良い人だな橘さん」


 胸がどくどく言ってる。耳が熱い。橘さんが、私の事好き……?
 あの結婚式の日に再会した時には逃したタイミングを悔やみ虚しい気持ちで橘さんを見つめていたのに。あの時に言ってくれていたら間違いなく橘さんを受け入れていたと思う。
 どうしよう――……私、どうしたらいいの。
 
 『既に信頼関係が確立しているちょうどいい年齢の独身男性がパッと目の前に現れたらいいのにね。そしたらなーんにも悩まずにさっと解決しちゃうのに』

 やだ、こんな時に何を思い出してるんだろう。パンパンと顔を叩いて振り払った。
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