まだ青い彼
「幼いって、結構しっかりしてたぞ、東谷。あと俺の周りだけかもしれないけど、23あたりで知り合った相手と結婚してる奴多くない? その辺の年齢の恋愛って結構大事だよ。幼い恋で片づけなくても」

 橘さんは恨めしそうに口を尖らせ、私も苦笑いする。

「確かに、学生時代からの恋人と社会人になっても続いていた人ってその相手と結婚してるかも」

 橘さんはだろう?とばかり満足そうに頷いたがすぐにハッとして嫌そうな顔に変わった。

「自分で言っといてあれだけど……東谷の彼氏もそのくらいの年じゃないのか」
「え……ああ。4月から社会人なので……」
「へえ、どこの会社」
「実は……」
 と、大学名と就職先を告げると橘さんはひゅうと口笛を吹いた。
 
「青田買いかよ。向こうはそのくらいの年で東谷と出会った。なんだよ。気づいてなかったんだったら俺は自分の首絞めただけじゃないか……」
「ふ、ふふふ。もう。おっかしい」

 橘さんが優し過ぎて笑ってしまう。ハッとした顔が少しわざとらしかったんだもん。

「タイミングってものがあるよな、何事も。32の東谷の気持ちがどこにあるか。23は俺だったんだけどな」
「尊敬してます。本当に」
「うう、ありがとう。その尊敬が愛に変わるのを待つよ、俺は。俺は急いでないし……。ってこういうこと言うと“産まない側”って言われるのか。東谷のタイミングで! あ、会社から電話だ。待てよなぁ、昼くらい」

 そう言って橘さんはめんどくさそうに電話に出る。感じのいい声と裏腹に、顔はわざとめんどくさそうにしていて吹き出してしまう。電話を終えると首をすくめた。
「悪い、先に戻る」
 そう言って立ち上がった。
「あ、はい」

 差し出されたお金を身振りで断ると、ふっと笑って伝票を持って行かれてしまった。

 尊敬……してます。
 その背中に呟いた。

 そう時間を置かず、私も店から出るとセルフのカフェに立ち寄りアイスコーヒーとカフェラテをテイクアウトする。呼ばれた案件は早々に片付いたのかデスクで休憩している橘さんの前にアイスコーヒーを置いた。

 顔を上げた橘さんが微笑む。
「ありがと」

 私も微笑み返して席へと戻った。橘さんを見るとまだアイスコーヒーを見て嬉しそうに微笑んでいた。
 
 

 


 
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