まだ青い彼
 打ち上げは一次会で終わり解散となった。

 温い風はいつの間にか少しひんやりと感じるようになっていた。
 橘さんが一人反対方向だった私を送ってくれた。並んで歩く安心感と居心地の良さ、知らず笑顔になってしまう。

「あ、ここで」
「おー、いいのか、駅じゃなくて」
「はい。人通りも多いですし、お疲れ様でした」
「ん」

 橘さんが歩いていくのを少し見送って私も歩き出す。少し、夜風に当たりたかった。仕事で満たしていた頭の中に空きが出来てしまったから。

 カツ、カツと自分の歩く音がする。ここの石畳、こけないようにしないと。そんなに酔ってないけど、こけたら痛そうだ。今日は絆創膏持ってるけど。それで思い出した、そうだ、ここ結婚式の二次会後に靴擦れが出来て休んだベンチだ。あの時若い男性が親切に絆創膏をくれて、それから絆創膏を持ち歩くことに……。

 ベンチを目の前に、ああ、と思う。
 ここで広睦くんと初めて喋ったんだ。

 一人そのベンチに腰掛ける。今日はあの日みたいに荷物は多くないし、着飾ってもいない。
 何より、広睦くんがいない。“あの頃は名前も知らないかっこいい人”だったけど。そう思ってクスリと笑った。そんな何年も経ったわけじゃないのにすでに懐かしい。でもつい昨日の事のようにも感じる。言いようのない変な感情がまた襲って来た。

「あの、横いいですか」

 不意に誰かに声をかけられ、人が近づいてきたことにも気づかなかった私は飛び上がってしまった。隣って……何で?他のベンチも空いてるのに。

 恐る恐る顔を上げる。大丈夫人通りは多いしいざとなれば走って……。

「言い訳をね、聞いてもらいたくて」
 
 そこには少し大人びた広睦くんの顔があった。ヒッと叫びかけた口を両手で覆った。
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