まだ青い彼
 「好き。俺も、春美さんが好きだ」

 私たちはそこで何も言わずしばらく抱き合っていた。
 私はやっぱり、この子といて満たされる気持ちを優先したい――。

 そう幸せを噛みしめていたら急に身体を離され、ガッっと肩を掴まれた。

「いや、ちゃんと気持ちがあったよってことで、これっきりってこと? 先はない? 」
「え、そうなの。私は今から始め……」
「よかった、はぁ、よかった。え、じゃあ()()()は!? 」
「橘さんとはどうもなってないよ」
「さっき! 一緒にいたじゃん! 」
「会社の打ち上げがあって、駅の近くまで送ってもらっただけだけど……え、どこから見てたの。いつからここに……」

 広睦くんは気まずそうに目を泳がせたあと、
「ずっと。遠目に春美さんだーって気づいてそこからずっと」
「そっか。たまたまだよ。たまたま」
「じゃあ、これからは、俺とちゃんと付き合ってくれるってことでいい? 」
「うん。どうやら、私も広睦くんしかダメみたい。あんなに忘れる努力して足掻いたのに。無駄だった」

 笑って言うと、広睦くんは逆に泣きそうになって無理に笑顔を作っていた。
「やば……」
「でもさ、すごいね。ちょっと歩こうと思ってここへ来たらたまたま広睦くんに会うなんて」

 運命かな、なんていい年して浮かれたことを言いそうになって躊躇った。ふと広睦くんを見ると真顔で口を開いた。

「ここで会えたらいいなって何回もここに来てたんだ、俺」
「え、ここ? どうして。連絡くれたらよかったのに」
「偶然じゃないと会ってくれないだろうと思って。メッセージなんかで済まさず、会って話したかった。まぁ……とにかく会いたかった」
「そ、そうだったんだ。でもここなんて滅多に来ないのに」
「ここ、俺たちが最初に会った場所だから」

 ぶわっと全身に鳥肌が立ち、当時のフラッシュバックが起きた。
 ここに座るまだ他人だった広睦くん。からかうように私の名前を呼んで立ち去った広睦くん。私が恋に落ちた場所だった。
 
 
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